<金融機関からの格付値>
シリーズ第1回にて、金融機関が債務者側に付与する格付値及び債務者区分について言及した。同稿では、企業のB/S及びP/Lを見て、自社がざっくりと、どのレベルの区分に属しているのかを判定することを目的とする。
金融機関の債務者区分には、(1)正常先(2)要注意先(3)要管理先(4)破綻懸念先(5)実質破綻先(6)破綻先、の6つの区分がある。このうち、システムにより自動的に出力される債務者区分は、(1)正常先(2)要注意先(4)破綻懸念先、の3つである。
債務者の決算書を財務分析システムなどに投入し、B/S上の資本勘定に一切の棄損が無く、またP/L上の当期純利益が黒字にて着地していた場合、基本的には(1)正常先としての債務者区分を付与される。まれに、「債務償還年数」の超長期化により、自動的に(2)要注意先として区分されることもあるが、ここでは論を省くこととする。
B/S上の資本勘定内に繰越欠損を内包するか、またはP/L上の当期純利益が赤字着地していた場合、債務者区分は(2)要注意先として区分されることが一般的である。もちろん、繰越欠損を翌年度に解消可能であるだけのエビデンスや、債務償還年数の短期化が図られていれば、この限りでは無い。
B/S上の資本勘定内に債務超過を内包する場合、(4)破綻懸念先として区分されることとなる。一方で、B/S上の長短借入金に代表者a/cなどの返済義務の無い負債が内包されており、自己資本と見做すと債務超過が解消される場合には、(2)要注意先として区分されることもある。金融検査マニュアルによれば、代表者a/cの借入金を自己資本と見做すには、会社より返済を受けなくとも良いだけの金融資産を、代表者個人が保有していなければならないこととなっている。
(3)要管理先は、金融機関からの長短借入金に「条件緩和債権」(返済猶予・金利減免等)を内包している場合に、自動的にまたは手動で機械的・事務的に区分される。(5)実質破綻先は、(4)破綻懸念先との明確な定義の分離が難しく、(4)破綻懸念先に区分される債務者においても、特に資本勘定の毀損(きそん)が著しい企業において、区分される。(6)破綻先は、すでに法的な債務整理などが開始されている企業を指す。
上記はあくまで原則論であり、債務者の個別的なビジネスにより、区分の上位または下位遷移は、十分に起こり得る。
問題は、(3)要管理先以下の区分については、その「PD」(倒産確率)が一気に跳ね上がり、貸出自体が金融機関にとって不採算となっている。つまり、金利引下交渉はもちろん、追加融資の可能性も、金融機関側の政策的意図が働かない限り、難しいのが現状である。
自社の格付・債務者区分レベルを把握することなく、金融機関との追加融資・金利引下・条件変更などの各種交渉に臨むことは、危険である。格付・債務者区分レベルの向上を第一義として、金融機関サイドの貸倒引当率の軽減を目指すことを推奨する。これは机上の空論ではなく、実践可能な「銀行取引戦略」の一環である。
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