日本のIT業界は「ガラパゴス」と揶揄されている。メディア・出版業界もその例外ではない。一方で、近年は海外のサービスを個人レベルで積極的に使う動きが出てきた。ところが、既存のマスメディア・大手出版社はなかなかその動きに呼応しようとしない。こうした現状を踏まえて、IT・出版・メディアの最前線を知るジャーナリスト・佐々木俊尚氏に、これからの各業界の姿について話を聞いた。
<ソーシャルメディアとセルフブランディング>
―2010年のIT業界を振り返って、どのように総括されますか。
佐々木 まず大きな流れとして、ITに限らずビジネスは、2000年ころから急激にグローバリゼーションが進んでいくなかで、日本は1億2,000万人という閉じた内需中心の垂直統合でやってきたわけです。自動車なんかがまさにそうで、それがだんだん成り立たなくなる、とくにIT業界では顕著でした。
20年くらい前は、国内のユーザーに国内のサービスを提供するというのが普通でした。ところが最近では、ツイッターやフェイスブックなどに見られるように、完全にアメリカのサービスを日本が輸入している状況になっています。なぜかと言うと、IT分野ではUnicodeという世界統一の言語が普及したことで、どこの国の言語でサービスをつくっても、すべての言葉が通るという現象が起こってきました。そのなかで、日本国内だけに閉じたサービスというのは不可能になっていて、いろいろなところでグローバルなプラットフォームができつつあります。
そうなると何が起きるかと言うと、ホワイトカラーもブルーカラーも国境を越えて完全に流動化してしまいます。たとえば、日本で年収1,000万円をもらっている人と、中国やアメリカで同じくらいもらっている人はだいたい同じ生活をしているでしょう。一方で、日本に住んでいるからといって中国に住んでもでも豊かというわけではなくて、年収200万円の人はどこの国でも同じ圏域になります。つまり、国ごとの違いよりも生活レベルや文化レベルごとの違いの方が生活に与える影響が大きくなるという逆転現象が起きます。そうなると、国民国家というものが薄れてきます。
この大きな時代の流れのなかで、個々人が生き残っていくためにどうすればいいか。まず、大企業に依拠していてもうまくいかないというのはハッキリしているというのが基本的な考え方です。とにかくスモール化、つまりアマゾンやアップル、グーグルなどの巨大なプラットフォームビジネスが立ちあがってくると、今後は少人数もしくは個人でビジネスをする方向に進んでいくのではないかと思います。
昔だったら、名刺に大企業の名前が入っているだけで信用されるという時代があったけれど、今は大企業でも倒産する恐れもあってまったく信用されません。そうすると、自分の名前で専門性を高めて飯を食えるようにしていかなければならない。そうなると、すごい勢いでツイッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを活用して、セルフブランディングしていくという方向にいかざるを得ないと思います。
【大根田 康介】
<プロフィール>
佐々木 俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部中退。88年毎日新聞社入社。99年アスキーに移籍し、『月刊アスキー』編集部デスク。03年退職し、現在フリージャーナリストとして主にIT・ネット分野を精力的に取材する。総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」委員。「2011年 新聞・テレビ消滅」「Google グーグル」「電子書籍の衝撃」など著書多数。
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