<産地にはこだわらない 品質本位制を堅持>
―上期は原価率がだいぶ下がっており、これが利益増につながった要因と見ています。9月に牛鍋丼を投入されてからは、まだ原価率は下がるとお思いですか。
安部 下半期は下がるでしょう。牛鍋丼の原価率は、他の商品をひっくるめても原価率では標準レベルですから、牛鍋丼のシェアが高まれば原価率が上がるということはありません。実はそのための試行錯誤、研究開発がもっとも骨が折れたところなのです。
もちろん客単価は下がりますが、客数で2割増加していますから、売上で1割増加しました。当初の想定よりも牛鍋丼の構成比が高いのです。客単価は当初430円を想定していましたが、今は420円を少し割るぐらいのところです。
―吉野家の牛丼は、アメリカ産牛肉にこだわりがありますが、4年前のBSE問題のようなリスクヘッジとして、今後はオーストラリア産などを検討される余地はありますか。
安部 かつて、社内でミートプロジェクトを発足させ、大手商社の畜産部門のエキスパートをスカウトして検討してきました。当社は「うまい、安い、早い」を価値の三原則としておりますが、なかでも「うまい」が最優先課題ですから、品質スペックを変えることはしません。いわば品質本位制です。それにプラスアルファで、いかにコストと価格を安くできるかを追求していきたいと思います。
その反対がコスト本位制、価格本位制ですが、価格とコストに品質をアジャストするという立場はとりません。ただし、品質スペック最優先ですから、産地にはあまりこだわりません。求めるクオリティを構成する要素がしっかり整っていれば、それで良いのです。一定レベルの質を保った原料をどれだけ集められるか、ソーシングできるかが条件となります。
また、OGビーフは鉄鍋、すき鍋、焼き肉丼などに使用していますが、素材によってメニューを変えることも検討する余地があります。素材にあったレシピも必要ですが、原点はこれまで培ってきた牛丼のテイスト、品質本位制を堅持していくという姿勢です。これがブランドをつくり、お客さまの信頼感を獲得するうえでも不可欠となります。
1店舗当たりの顧客数は、マーケットにいかに支持されているのかを判断するうえでの指標になりますし、ビジネスモデルとしての利益率や投資に対する効果、ROIバランスが大事な指標だと考えています。USAビーフかOGビーフかの選択は、経営改革という視点からすれば方法論の1つでしかありません。
【文・構成:吉村 敏】
<プロフィール>
安部 修仁(あべ しゅうじ)
1949年福岡県生まれ。福岡県立香椎工業高校卒業後、プロのミュージシャンを目指し上京。音楽活動のかたわら、(株)吉野家でアルバイトとして勤務。その後、正社員として同社入社。77年、九州地区本部長を務め、80年の同社倒産後、83年に取締役として経営に参画。88年常務取締役、92年代表取締役社長に就任。07年グループ改組、10年4月より現職。主な著書として、東京大学・伊藤元重教授との共著『吉野家の経済学』(日経ビジネス人文庫)などがある。
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