中洲では場を盛り上げるために、飲みの席で一芸が披露されることも珍しくない。中洲のママさんの名人芸と言えば、「ロイヤルボックス」の藤堂和子ママのじゃんけんが有名だ。勝ちも負けも自由自在という藤堂ママに、小生も翻弄されたことがある。このほかにも百発百中のマッチ棒倒しなど、数々の奥義を持っている。
先日訪れた店で、ある客がママとカラオケ勝負を始めた。100点を出せばママの勝ちというわけである。カラオケで採点モードを経験したことがある人なら分かると思うが、100点はそう簡単に出ない。モード設定によっても変わるだろうが、90点台を出せば歓声があがるぐらい。アルコールが入った状態で歌うことも影響するだろう。なかなか出ないからこそ勝負が成立する。話にのった客も、「ねらって出せるわけがない」とたかをくくっていた。
モニターに表示された選曲を見て、店長が小生にささやいた。「あん曲なら、ママは必ず満点ば出しますよ」。詳しく話を聞くと、ほぼ100%に近い確率で100点を出す持ち歌が3曲はあるという。選曲されたのは高橋真梨子の「はがゆい唇」だった。
曲が始まり、ママが歌い始めると店内は静まり返った。上手い。少し歌が進むと、途中経過で点数が表示され始める。最初は98点、そして99点、100点と。100点になってからはずっと100点が続く。歓声をあげる店スタッフに対し、客は苦笑い。結局、100点を出したママが勝利した。
それにしても、よくもまああんだけ酔っ払ってしっかり歌えるものだ。ヒマな時にでも練習していたのだろうか。これもひとつの名人芸と言っていいだろう。ちなみに、ほかの2曲については企業秘密とのこと。また、高得点を伸ばすコツは音を伸ばすことだという。
【長丘 萬月】
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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