かつて家電売上日本一を誇った地場大手企業(株)ベスト電器の2010年は、1月の大リストラ策発表と、直後の3月に発生したわずか2カ月での経営陣交代劇で幕を開けた。波乱の年明けからちょうど1年経った今、同社はどのような状況に置かれているのか。
<なぜかつての王者は地に堕ちたのか>
同社の2010年2月期連結決算は、売上高が前期比▲7.1%の3,456億1,900万円で、営業利益▲52億3,000万円、経常利益▲56億9,800万円、当期純利益は事業構造改善引当金を含む290億6,900万円を特別損失として計上し、▲374億4,800万円の過去最大の大幅赤字となった。そのため、09年2月期までに蓄積してきた812億1,400万円の純資産も431億1,600万円となり、過去の遺産を半分食いつぶすかたちとなってしまった。
これを受け、10年1月12日、同社は大リストラ策を発表。当時社長だった濱田孝と会長だった有薗憲一氏が辞任、新社長には副会長だった深澤政和氏が就いた。さらに、経営再建中だった子会社「さくらや」15店舗を同2月28日で閉店し清算。社員1,000名の原則解雇や一部店舗のビックカメラへの譲渡、さらには国内直営218店舗中63店舗の閉鎖などに踏み切った。直後の3月に井澤信親元専務と深澤元社長が辞任。一部で「井澤のクーデター」と報じられるなど、内部体制の混乱が表面化した。
なぜ、かつての王者がここまで地に堕ちたのか。「不景気による消費低迷のせい」というのは言い訳にならない。事実、かつてのライバルだったヤマダ電機は別格の強さを示し、エディオンやケーズホールディングスなどもそれなりに成長を続けている。明暗を分けた要因はいくつかあるが、「圧倒的な品揃えと価格の差」「社員の質」「店舗の立地」、そしてこれらの要因を改善できなかった旧態依然の経営体質などが挙げられる。
<本丸に攻め入れられる 硬直化した組織の果て>
同社の歴史を少しさかのぼってみよう。1代でベスト電器ブランドを築き上げた北田光男氏が、1953年9月に九州機材倉庫(株)を創業したのが同社の始まり。68年12月に(株)ベストサービスを設立、70年12月にはFC店展開を開始した。72年10月、休眠会社であった鈴木被服天幕製造(株)を現商号に変更し、翌73年3月に九州機材倉庫を吸収合併した。
福岡証券取引所に株式上場したのは73年9月、さらに82年12月には東証二部に上場。そして84年8月、ついに東証一部に指定換えとなった。85年1月、シンガポールに家電販売会社を設立して海外進出、96年1月には他のライバルを圧倒して家電販売で日本一となり、地場企業の雄として君臨した。
99年10月、現・ソフトバンクBB(株)とインターネット通販会社(株)イーベストを、05年7月には(株)ゲオとの合弁会社(株)ベストゲオをそれぞれ設立。06年12月、関東地区における営業網拡大のため、(株)さくらやの株式40%を取得し連結子会社化するなど、積極的なM&Aを展開していった。
こうした華やかな一面の裏で、光男氏のカリスマ性と剛腕で成長を続けてきた同社の組織は、つぎはぎだらけで脆いものとなっていた。02年11月、光男氏が亡くなると長男の葆光氏が跡を継いだが、そのわずか1年後の03年12月に葆光氏は不慮の死を遂げた。そこで、実務全般を執行していた光男氏の娘婿である有薗憲一元専務が、04年1月社長となった。
結果的に、有薗体制下の6年間で経営は迷走した。東上作戦は失敗に終わり、反対にヤマダ電機に本丸・福岡に攻め入られた。かつては「ヤマダ包囲網」を築いていたが、その逆をやられた。以前は地元密着型店舗として家電の無料設置や保守サービスなどで顧客の心をつかんでいたが、品揃え・価格で及ばず、アウトレットで対抗しようとしたが功を奏さなかった。
硬直化した組織は犯罪も生み出す。05年7月から08年2月ごろにかけて、ダイレクトメールを出す際に心身障害者用低料第三種郵便制度を悪用し、同社の販売促進部長が大阪地検特捜部に逮捕され、本社が家宅捜索される事態が発生した。
<過去の遺物か、ブランド守り抜くか>
11年2月期中間期時点では、業績は回復傾向が見られる。先のリストラ策の効果が表れだしたのをはじめ、国の経済支援策である家電エコポイントや地デジ化などによる需要の押し上げがあった。記録的な猛暑によるエアコンの売れ行きも好調だった。そして、ビックカメラとの業務・資本提携によって生み出された新ブランド「B・B」も出店攻勢を強めている。
ただ、こうした流れが今後5年、10年と続くかといえば、それは難しいだろう。経済政策も需要の先食いだし、日本経済自体がまだまだ悪化していくという見方もある。そのなかで、「ベスト電器」そのものの名前が消えさり過去の遺物として忘れ去られるのか、ビックカメラ傘下でブランドを守り抜くのか、この1年が正念場となるのは間違いない。
【大根田 康介】
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