(株)連峰 代表取締役 與田 哲也 氏
<惻隠の情は通用しない>
その間も私は彼の日本へのアプローチ役として活動しますが、あくまでも副業的な動きでした。
このままでは中途半端に終わりかねません。また本業の方も2期連続の大幅な赤字で会社の存続が危ぶまれる状態でした。そうした危機感から私は中国を訪れ、彼に助言を求めました。彼から出た言葉は「本業をやめたら」という意外な言葉でした。つまり、自分と組んで本格的にビジネスをやらないかというわけです。それが3年前のことです。
そこで一大決心をした私は社名変更とリストラを断行し、日中ビジネスを本格的に始めることにしました。その直後、彼から「タングステンの輸出枠を3,000トン確保したから、買い先を見つけないか」という話が舞い込んできました。さっそく関係各省に案内をしましたが、まったく相手にされません。要するに、官僚そして彼らと結託した大企業が省益、社益を優先している姿がそこにありました。
今、日中関係がギクシャクして、レアアース、レアメタルの禁輸危機が真実味を帯びてきていることは、この国の政治家、官僚、大企業がいかに中国と本当の信頼関係を築けていなかったのかを証明しています。3年前に私の話にまったく耳を傾けなかった彼らは、国益を失ってしまうという重大な過失を犯してしまったのです。
また、日本人側の対応の拙さにも失望したことがありました。
彼からオリンピック開催に合わせた北京での日本風居酒屋をオープンしたいというオファーがあり、私は地元の居酒屋チェーンに話を持ち込みました。ところが日本側の不誠実な対応のために、オープンしてわずか数カ月で閉店、中国側が大きな損害を出してしまいました。他にも中国からのIT技術者の受け皿企業に出資するなど、彼が日本に投じた資金は2億円にも上りますが、結果はあまり芳しくありませんでした。
「中国人に騙された」という話はよく耳にしますが、その逆もよく起きているのが現実です。これは、日本人が「本音」を明かさないという気質が災いしていると思います。中国人は互いに本音をぶつけ合い、落とし所を探ります。日本人は惻隠の情がこうした交渉ではなかなか通用しないことを肝に銘じるべきでしょう。
【杉本 尚大】
[COMPANY INFORMATION]
(株)連峰
代 表:與田 哲也
所在地:福岡市博多区千代3-3-4
設 立:1988年
資本金:2億3,830万円
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