(株)連峰 代表取締役 與田 哲也 氏
<貧すれば鈍す>
今振り返れば、焦ってしまい、提携先の経営内容やトップの人物などを精査せずに紹介してしまったという反省があります。
その後も、何とかビジネスをモノにしたいと焦りを募らせた私は、ある環境技術のベンチャー企業に出会います。その技術は河川、海域、湖沼などの自然界のままで堆積汚泥分解と水質浄化を同時に行なうことができる画期的な浄化技術であると言います。
河川、湖沼の汚染に悩む中国は、国家を挙げてこの問題に取り組んでいることを知った私は、さっそくこの技術を中国に売り込み始めます。すぐに彼に実証実験の場の紹介を依頼し、下水処理場での実験が始まりました。これが成功すれば、彼の力からしても中国全土に広がる。そんな皮算用をして興奮したものでした。
ところが、半年後に撤退することになってしまいました。原因は、ベンチャー企業の社長の人間性にありました。約束を守らない、資金の提供を求めるなど、どこか怪しい部分が出てきました。決定的だったのが、実験の効果がなかなか出てこないことでした。社長は「時間がかかる」の一点張りです。実験用に仕入れる資金も枯渇し始めます。彼に資金援助を頼もう、と脳裏をよぎりましたが、日本への投資が芳しくないなか、これ以上は甘えられません。ついに撤退することになってしまいました。
その後、あるエネルギー開発ベンチャーの技術を、彼の人脈で中国最大規模のセメント会社にプレゼンする機会を得ました。そのベンチャー企業からいきなり「1億円出資してくれ」というお金の話になりました。私は経営状態を知っていましたから、無理からぬとも思いましたが、話はまとまらないと直感しました。同時並行で、韓国最大の製鉄会社にも話をしていました。しかし、こちらもお金が先でした。相手側は心配になります。信頼関係がないまま、お金の話を先に出されると、不信感が芽生えるのは当たり前です。
中国のセメント会社にしても、韓国の製鉄会社にしても、格が全然違います。それを目先のお金のことばかり言っていたら、その会社の品格が落ちます。結局、ペンディングになってしまいました。その1年後、その会社は韓国の製鉄会社に買収されます。
教訓として得たものは、中国とビジネスをする場合には、中国のマーケットを使うということです。本当の友好関係を使い協業をするときには、お金と技術を日本から持っていって、そこで広がったマーケットを折半するというのが基本だと思います。その会社は先にお金のことばかりを言い過ぎたのです。たしかにその会社の技術はオンリーワンですが、まだ世界で成功を収めていた訳でもありません。結局、技術は韓国に取られてしまうという屈辱的な結果に終わりました。
この会社には、政府の補助金など多額の投資が投下されていましたが、トンビに油揚げをさらわれた格好です。買収額は6億円だと聞いています。破格の買収金額で優れた技術を手にした韓国の企業の交渉術が優れていたのかもしれません。同時に、日本からの助け舟がなかったことは、大きな問題です。
【杉本 尚大】
[COMPANY INFORMATION]
(株)連峰
代 表:與田 哲也
所在地:福岡市博多区千代3-3-4
設 立:1988年
資本金:2億3,830万円
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