熊本県人吉市上戸越町で、人吉市から市民に対し「市有地を無断で占有した」として撤去命令が出されている樹木のなかに、日中友好の記念として植えられた桜2本が含まれていることが分かった。
その桜の木は、中国の政治家・王懐東氏に関係するもの。2008年3月、王氏が来日して人吉市をおとずれた際、懇意にしている会社社長・福岡すみ子氏との間で日中友好の活動を約束。同年5月、その記念として福岡氏が造園業者に頼んで植え、同年7月、再度、王氏が人吉市を訪れ確認したという。福岡氏は「王氏は事実を認めている」と話している。
王氏は政治家・企業経営者として日中友好に尽力している人物。01年と02年には、中国地方政府訪日代表団長として来日。03年8月には、当時、官房長官だった福田康夫元首相の表敬訪問を受けた。九州大学大学院で博士号を取得(1999年)した経歴も持つ。
撤去命令が出されたのは、樹齢300年から400年と言われ、観光名所にもなっているツツジの木の周辺。同木は、ボランティアで周辺の草を刈るなど数十年にわたって家族ぐるみで世話してきた福岡氏の実父の名に由来し、『秀望のツツジ』と呼ばれている。そのことについては、01年に、その功績を評価した人吉市が建てた案内板にも説明されている。
問題になったのは、『秀望のツツジ』に至るまでの山道に樹木23本(山茶花、南天、木犀、桜など)と龍神を祀った御堂。これらの物件について人吉市は、無断で植樹または建造したとして、福岡氏に撤去を指示した。さらに、同指示を拒んだとして、人吉市は福岡氏を相手に10年3月31日に起訴、裁判へと発展。そして同12月28日、熊本地方裁判所人吉支部で判決が出された。
判決は、人吉市側の請求を全面的に認めるものだった。まず、「妨害物件」とされる前出の樹木および御堂の撤去。次に、10年4月16日から明渡し(撤去)まで月300円の損害金の支払い。そして、訴訟費用の負担などが被告・福岡氏に求められる。
福岡氏は、樹木は細い山道から見物客の転落防止のためのガードレール代わりのものであること、さらには23本のうちには福岡氏以外のものがあるとして反論していた。
実際に現地を取材したところ、花見の時期ではない冬にも関わらず、『秀望のツツジ』の辺り一帯はきれいに草が刈られており、問題の樹木も山道の端に整然と植えられていることが確認できた。なお、周辺には複数の祠があり、それらの手入れも福岡氏ほか、市民ボランティアである十数人の護り人によって手入れされてきたという。
【山下 康太】
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