<地域住民がまず元気に 次代へ受け継ぐ想い>
最後に、住民および島で働く人側からの意見はどうであろうか。
まず、「家プロジェクト」のツアーガイドを担当していた猪原秀明氏は、直島の現状およびこれからを次のように見ている。
「直島に来られる方は、日常と違う時間・空間を求めて来られています。ほかにはないこの『場』こそが、直島の一番の魅力です。しかし、現在の直島は、先の芸術祭も含めて知名度が上がってしまい、島を訪れる方も右肩上がりに増えています。そのため、今では若干キャパシティをオーバーしてしまっているところもあります。とはいえ、観光客を受け入れるためだけに拡張していくのでは、この島の良さが感じられなくなってしまいますし、できるだけ緩やかに無理をせずに発展していくことが望ましいですね」。
直島商工会で経営指導員を務めている大谷俊介氏は、増加傾向にある交流人口とは逆に、減り続けている島民人口に対して懸念を感じている。
「交流人口が増えることも必要ですが、やはり一番には島の人口が増えていってほしいと思います。地域の活性化は、やはりそこに住んでいる方が基礎になりますので、人口が増えるような施策を考えていかないといけないと感じています。ただその場合、どうしても雇用というものが足かせになってしまいますので、この部分についても策を講じていかねばなりません」。
長年にわたって直島町役場に勤務し、現在はNPO法人直島町観光協会の事務局長を務める濵口敏夫氏は、島の基盤の多様化の必要性について語る。
「直島はやはり、福武總一郎という強いリーダーがいたからこそ、現在のかたちになっています。どちらかと言えば、ベネッセによる民間主導型の地域づくりと言えます。そして、島の経済基盤としては大正6年から続いている三菱マテリアルで、島の約7割以上の人がお世話になっています。いわば、ベネッセと三菱マテリアルという2大企業が直島を支えてくれているかたちですが、あまり頼り過ぎてもいけません。できるだけ多角的な経済基盤をつくっていって、島民自身が自立を考えていかなければなりません」。
濵口氏と同じ直島町観光協会の副会長で、「007赤い刺青の男記念館」や「なおしまスラグ陶芸体験工房」の立ち上げに携わってきた奥田俊彦氏も、島民の自立の必要性について考えている1人。
「将来の直島をどうしていこうかと考えたときに、ベネッセさん、三菱マテリアルさんに頼り切るのではなく、直島町民が自分たちで考えて、できることをしていかなければなりません。そのためには、やはり高齢者が元気にならないといけない。定年後も隠居じゃなしに、まずは年寄りが元気になることが一番大事です」。
これまで述べてきたように、直島の地域づくりが成功している背景には、類まれなる2人のリーダーやベネッセという稀有な企業の存在があるのは間違いない。しかし何よりも大事なのは、半世紀もの間ブレずに一貫してきた「地域側の強い想い」である。
「自分たちが何をしたいのか」「地域をどうしたいのか」―それをしっかりと見失わず、まずはその地域に住む人が元気になっていくこと。そして、結果的に交流や経済が活性化していく。この直島で行なわれているようなスキームこそが、「地域づくり」「地域活性化」において、何よりも重要ではないだろうか。
【坂田 憲治】
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