「地域振興」や「まちづくり」を考えるうえで、ポイントとなるものはいったい何か――。3名の専門家にお集まりいただき、座談会を行なった。
<課題となるのは、依存型の体質・意識>
―これまで、それぞれが携わってこられた地域づくりの事例において、そこで経験した問題点とその解決策について、お話をお聞かせください。
蓼原 まず、私自身が感じている地域づくりの課題というのは、やはり20世紀時代の"行政依存型"の体質や意識です。
20世紀というのは、どちらかというと経済偏重型の、国の活力を高める時代だったと思います。とにかく「日本という国を経済的に元気にする」、そして「公共事業というかたちで社会システムを整えていく」――そういったことを、国あるいは行政主導で取り組み、国民はただそれを利用するだけの立場でした。また、利用するだけではなく、「橋をつくって欲しい」「ダムをつくって欲しい」「鉄道を通して欲しい」など、ある面では要求もしてきました。そういった、さまざまな要求・依頼といったものでかたちづくられた社会を、私は「行政依存型社会」と呼んでいます。
そういったことから、何かを成そうとした場合、あるいは地域で何かまちづくりをしようとした場合、どうしても依存型の体質が邪魔をしてしまいます。何かをしようとすると、常に行政あるいは企業を頼りにする―そういった意識にどうしてもなってしまっています。これはおそらく、今まちづくりを行なううえでの最大の課題だと私は認識しています。
やはりまちづくりというのは、「自分たちの町を自分たちの力で元気にする」――そういう考え方が基本でなければなりません。国や行政に依存するのではなく、自分たちの力で「まず、やろう」という意識に変わっていかない限り、まちづくりというものは成し遂げにくいものだと思います。
<「葉山ヘルスケア省エネ共和国」の事例>
蓼原 私が実際に行なった事例のひとつなのですが、福岡県宗像市に「葉山」という住宅地があります。ここは、たしか約520世帯、約1,400人、高齢化率が約46%の高齢化住宅地です。
一般的に見れば、これだけ高齢化した住宅地というのは、やはり「地域力」的には限りなく下がっています。ここに私が関わって、「自分たちの町は自分たちで元気にしていこう」というように、まずは意識を変えていくところからスタートしました。
現在では、ここは「葉山ヘルスケア省エネ共和国」という「国」がつくられており、その「国」のなかで皆さんが一緒になって、「我が町を元気にする」「我が町を自慢する」というかたちに変わっています。
ですから、たとえ高齢化した地域であっても、やはり人が意識を変えて、「自分たちの町は自分たちが元気にするんだ」という気持ちになりさえすれば、いくらでも町づくりが成功するチャンスはあります。
やはり、「人の意識をいかにして変えるか」、あるいは「20世紀時代に脈々とかたちづくられた満足レベルの高い意識を、どう適正化していくか」――そういったところが、地域活性化のひとつの課題だと思います。
―その葉山の事例では、具体的にどういったかたちで高齢者の意識を改革していったのでしょうか。
蓼原 やはり、地域に対して企業が関わっていくというのはすごく大事です。そこで、まずは九州電力さんの協力を得て、省エネの勉強会を始めました。勉強会を行なうことで"共和国の国民"の皆さんが、エネルギーの大事さというか、「省エネをしよう」というような気持ちをまず高めていきました。
何か目的を持つことで、みんながそれに向かって行きますから、「何かやれるんじゃないか」という気運が高まっていきます。そして、たとえば省エネについても「毎年10%下げましょう」あるいは「5%節約しましょう」などといった目的を掲げ、それを実際に達成していくことで、自信が生まれてきます。
それがどんどん発展していくと、「自分たちの町は自分たちの力で元気にできるじゃないか」という意識がどんどん広がり、そういった連鎖的な取り組みにつながっていくのではないでしょうか。
もうひとつ、この葉山は「ヘルスケア・健康」というキーワードも持っています。というのも、ここは日赤看護大学や福岡教育大学などの大学が近くにありますので、そこの学生に「健康測定」や「骨密度の測定」などをお願いするなどして、健康促進に関わっていただいています。
このように、高齢化の地域単体だけで見るとなかなか難しいのですが、そこに企業が関わったり、大学が関わったりすることで、地域が活性化していくのです。
【坂田 憲治】
<参加者> | |
NPO法人えふネット福岡 専務理事 蓼原 典明 氏 |
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏 |
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(株)地域マーケティング研究所 代表取締役 吉田 潔 氏 |
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