＜中国の地方都市を盛り上げる＞

　―合弁会社の話はどのような経緯で進んだのでしょうか。

　和田　この話は急に決まったわけではありませんが、実は今年３月、マーケティングの達人で作家としても名高い神田昌典さんと食事をしたとき、なんとなく意気投合しました。40歳代という若さでインターネットを通じた彼の門下生も多いと聞きます。彼は、アメリカでのビジネスならある程度の知識はあるけれども、中国にはあまり詳しくないということで、門下生たちが最近「中国に進出したい」という話をしていて困っているとおっしゃっていました。そこで、私は中国でのビジネス経験がありましたので、知恵と力をあわせて一緒に何かやろうじゃないかという話になりました。

　それからトントン拍子で話が進み、会食から５カ月後の８月下旬に「アジア進出セミナー」というのを東京で開催しました。半日で２万5,000円という料金でしたが、さすがに神田さんのマーケティング力のおかげで、定員250人の会場を10日ほどで200人集めることができ、当日は満員御礼の盛況振りでした。私や娘の人脈で、上海にいる10人の経営者に参加していただき、私自身もメインのひとりとして講演しました。豪華な顔ぶれの登壇者たちが中国人ならではの視点も交えてお話しいただけたこともあり、参加者の皆さまからは大好評をいただき、セミナーは大成功に終わったと思います。

　―それはまた、すごい集客力ですね。

　和田　そのときに来た10人の経営者の来日の機会を、たった１回のイベントで終わりにするのはもったいないので、福岡の人にも紹介したいなと思い、福岡でも60人ほど集まってもらって交流会をしました。その際にいらっしゃった中国の方で、今回の両会場で中国講師団長としてご講演いただいた東大医学部卒の金会慶博士と大阪大学卒の宋揚博士から、交友関係を深めたいので一緒に国慶節の休暇を過ごそうということで安徽省の黄山にお誘いを受けて、今年の10月初めに中国に行きました。すばらしい自然環境のなかで数日おしゃべりをしながら過ごすうちに、だんだん信頼関係も深まってまいりました。

　金博士は中日の友好交流のためにいつも熱い思いを抱いている方で、彼の中国の全国ネットの経済界をはじめとした広い人脈を駆使して、日本の企業家と中国の企業家の交流のために一翼を担えればという考えをお持ちでした。そのため、私の持つ日中の架け橋の役割を担いたいという思いが統合されることになり、そこで日中の経営者同士が一緒にビジネスをできる仕組みをつくろうということで「中日企業家交流協会」設立の考案につながり、その協会の発足と同時に来年は中国でシンポジウムというかたちで国際会議を開催する方向に話がかなり進みました。場所については、上海のとなりにある安徽省の省都・合肥が今、新しい街づくりを計画していて盛り上がってきていますので、開催場所としてふさわしいのでは、ということになりました。

　合肥は、中国科学技術大学など主要な大学もあり、北京に次ぐ科学技術教育拠点にもなっています。胡錦濤主席や吴邦国氏も合肥の出身で、この地から出発して現在大活躍中ということもあり、合肥にはなにか大きな力が埋蔵されているような感じもしています。日本と中国の経営者がすでに集まって基盤作りを始めているから、ここは大きなビジネスチャンスになると思います。

　金博士の合肥でのご人脈のおかげでの合肥市共産党のトップである孫書記長と私との会談も実現され、その席で、孫書記長から来年５月ぐらいの時期に「中日企業家交流協会」の合肥でのシンポジウム開催の全面的なバックアップが約束されました。そういうわけで、その実現に向けて急ピッチで準備を進めているところです。経営者の間では、反日とかそういうものはまったく関係ありません。中国と日本、両方の経営者が中国の地方都市を盛り上げていきたいですね。

【文：杉本　尚大、構成：大根田　康介】

＜プロフィール＞
和田　一夫（わだ　かずお）
1929年神奈川県小田原市生まれ、51年日本大学経済学部卒業。両親の経営する八百半商店に入社。62年社長に就任。71年ブラジルに出店、以降東南アジア、アメリカ等11カ国に進出しヤオハンを国際的な流通グループに育て上げる。90年香港へ本部を移転、95年上海に世界最大級の百貨店を出店。97年ヤオハンジャパン倒産。現在、国際経営塾理事長、上海市栄誉市民。著書に『大失敗からのビジネス学』（角川書店刊）などがある。

チャイナビジネスは地方の時代へ～元ヤオハングループ会長・和田一夫氏特別講演会

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