7月中旬のある日、まる1日をかけて、山陽監査法人より営業責任者である稲庭取締役に対するヒアリングが行なわれた。
営業からは販売管理資料に基づいて販売予定価格の説明があったが、会計士も簡単には納得しない。
稲庭取締役「大分ホテルは、この3社から関心が寄せられており、価格目線としては口頭ではありますが、相手先担当者は●●億円といっております。このため、この●●億円を販売予定価格とさせていただきたい」。
公認会計士「それでは伺いますが、この物件で買付申込を受け取った相手先はありますか」。
稲庭取締役「いいえ、ありません」。
公認会計士「それなのに、これらの関心先のなかで、もっとも価格が高いというこの顧客と契約できると考える根拠はなんでしょうか」。
すべての物件において、確実なものはなにもなかった。唯一ある程度確実なのは、8月に入ると、国体通りの土地が売れるであろうということだったが、これすら売買契約書への調印は決済当日までお預けであった。
終日のヒアリングの結果、当社より数値を出し直した。この結果、今期決算見通しは赤字。これに伴って繰延税金資産も取崩しする状況となった。そこで役員一同、退職慰労金を返上して1億円の戻し益を確保するなどしたが、それでも第1四半期末の自己資本比率は5%台ということになった。上場来蓄積してきた内部留保の大半を食いつぶし非常に脆弱な状態であった。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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