「地域振興」や「まちづくり」を考えるうえで、ポイントとなるものはいったい何か――。3名の専門家にお集まりいただき、座談会を行なった。
<企業活動のジレンマ>
佐藤 私も、考え方については、蓼原さんがおっしゃった通りだと思います。
今まで行政や国が主導していた地域づくりというのは、結局のところ疲弊している地域に対して「じゃあ、企業を誘致しましょう」というような施策を行ない、そこで雇用を増やし、さらには税収を増やして――というようなことでした。
しかし、企業活動というものは効率を上げていくことを追求するものですが、効率を上げていくというのはある意味ではジレンマなのです。つまり、効率が上がれば「雇用は少なくてもいい」という方向に向かわざるを得ません。究極を言えば、「人が働かなくてもお金が儲かる」というのが、資本主義の行きつくところだからです。
現在、若者に仕事がないとか、失業率が上がっているというのは、ある意味では社会の構造の必然であって、今はその構造が変化するという"潮目"に来ているわけです。そこはいろいろな複合的な要因があるわけです。
ですからこの"潮目"に対して、「国が主導する」というところから、「地域が主体になっていく」というところにシフトしていかなければなりません。そこで今、蓼原さん、吉田さんをはじめとした皆さんが、いろいろな角度でまちづくりに関わっているのだと思います。
<「沖縄・栄町市場」の事例>
私がお話するのは、10年くらい前に携わった沖縄での仕事についてです。この仕事は、私にとってある意味「きっかけ」になったもので、「モノをつくらない」ということを初めてここで行なったのです。
沖縄に「栄町」という公設市場があるのですが、当時、そこの再開発という話が私のところにありました。話を受けた当初は、「そこに行って、クリアランスして、商業ビルができてテナントが入るようにすればいい」というような軽い気持ちで行ったのですが、何度もそこに通っているうちに、「そうではないな」と気づき始めたのです。
実は沖縄というのは、「経済」という指標で見た場合、都道府県のなかでも下位に位置します。たとえば、年収や貯蓄率など、そういったものがすべて下位なのです。
ところが、もうひとつ別の視点から見てみると、依然として長寿地域ですし、癌の疾病率が非常に低く、出生率も高い――そういったものがいっぱいあるわけです。経済的には豊かではない部分と、経済以外の部分での豊かさが同居しており、それを沖縄に行ったとき、栄町の公設市場で目の当たりにしました。
この「栄町市場」では高齢のおばあちゃん――沖縄風に言うならば"おばぁ"が、1坪か2坪しかないようなところでテレビを見ながら商売をしているわけです。おばぁたちはそこで孫のこづかい銭を稼ぐ程度に商いをしたり、知り合いのところを手伝ったりしながら、1日を過ごしています。
我々が行ってこれを見た場合、「商売をする気があるのだろうか?」などとも思ったりするような状況です。ですが、そこで「これは何だ?」と考えたときに、「これは商業施設ではない。これは明らかに福祉施設だ!」と思ったわけです。
つまり、我々の目から見てこれを「商業」というように捉えた場合、「非常に効率が悪い」と感じます。しかしだからと言って、たとえばこれをクリアランスして、ここにいる高齢者の方を施設に入れたとしたら、それは社会負担になってしまいます。おばぁたちはここで過ごしている分には、たとえそれが「商売」とは言えないにしても、自活して元気にやっていけているのです。
そうすると、実は「この市場の存在そのものが、非常に意味があるものだ」との結論に至ったのです。
そこで私たちは、「ここで笑顔を絶やさず、元気に商売しているおばぁたちをドキュメントしよう」ということを考えました。
まず、おばぁたちの写真を撮って、一人ひとりに文章を考えてあげて、それぞれ1枚1枚大きなオリジナルのポスターをつくってあげました。そしてそれを商店街のお祭りのときなどに、貼ってもらったのです。そうすると、おばぁたちはそれをすごく喜んでくれて、「外の人から見たら、この市場はこんなに面白いのかね」と、自分たちの市場の価値に気づいたのです。それから、おばぁたちがすごく元気づいてくれました。
その後、ポスターをつくった分から写真集までつくってあげて、配りました。ですから、ビルを建てる代わりに、ポスターと写真集が沖縄の仕事での成果品です。ただ、結局はそんなにお金にはなっていなくて、むしろ手出しになってしまったのですが...(笑)。
それからその後、そういったことをしていたら、「この市場って面白いね」と若者たちが関心を持ち始めました。
そして、現在はどうなっているのかというと、「前島アートセンター」という現代アートの活動をしている若者たちが市場のど真ん中に自分たちの拠点をつくって、週末になればシングルモルトのバーなどをやっています。また、そこにパソコンなどを持ちこんで、「市場とアート」みたいな活動もやっているみたいです。まぁ、おばぁたちに現代アートが理解できるかどうかはわからないのですけれど(笑)、"水と油"のような、そのミスマッチさが非常に面白いんですよ。
ですから、無理にモノをつくらなくてもいいのです。むしろ、「無理につくることが、町を破壊することになる」と最初に気づかされたのが、私にとっては沖縄でのプロジェクトでした。
【坂田 憲治】
<参加者> | |
NPO法人えふネット福岡 専務理事 蓼原 典明 氏 |
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏 |
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(株)地域マーケティング研究所 代表取締役 吉田 潔 氏 |
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