ある都銀は、その福岡地区の地区部長が黒田会長宛に来社し、融資物件の抵当権を仮登記から本登記に切り替えることを要請した。これに対して黒田会長は
「私の一存では回答しかねるので、次週の取締役会に諮ります」
と返事をしていた。
その後、取締役会の席上、黒田会長からは銀行からもプレッシャーを掛けられているので大きな土地の売却に拍車を掛けるよう指示があったが、物件の抵当権を本登記に切り替えるという話はなかった。
その取締役会の数日後、都銀の支店次長がアポイントのうえ来社した。
「ところで石川さん、先週、弊行の地区部長が会長のところへお邪魔しまして、弊行が支援させていただいております●●物件の抵当権を本登記に切り替えさせていただきたい旨、お願いいたしました。会長は、それを取締役会に諮るとおっしゃっていましたが、そのような話はありましたか?」
「いえ、初めて聞きました」
「あれっ?」
相変わらず、元気に、飾らず、本音で、というのがこの都銀の以前からの性格である。
「本登記の話は聞いておりませんが、会長からは、銀行さんからプレッシャーが強いので、●●の土地を早く売るように、との指示は営業に対して出していましたよ」
「そうですか、では本登記の話はなかったんですね。でも、地区部長がお邪魔させていただいて、梨のつぶてでは辛いですね」
「黒田は、地区部長様からの話の意味を、より大きく捉えたのではないでしょうか。それを受けてきちんと部下に指示を出していましたよ」
そのようなささやかな抵抗はしたが、この仮登記から本登記への切替えは、情勢上やむを得ないことと思料されたため、数週間後に本登記への切替えに応じた。当該融資は、このメガバンク単独の融資ではなく、シンジケートローンで、これに参加していた銀行ももともと当社と取引していた銀行だったので、私は、それらの銀行に、本登記の受け入れを事前に報告したうえで進めてもらった。
その後、各銀行からも雪崩をうって仮登記から本登記への切替え要求が寄せられ、10月にはすべての物件が本登記になったと記憶している。これは、同業他社もおおむね同様の状況であったろう。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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