「地域振興」や「まちづくり」を考えるうえで、ポイントとなるものはいったい何か――。3名の専門家にお集まりいただき、座談会を行なった。
<「自慢ができる」ということ>
吉田 私が住んでいる団地は今から20数年前にできたものなのですが、広い道路を隔てた向こう側とはもうほとんど交流がありません。せいぜい隣とその隣くらい。誰が住んでいるかも知りません。今でさえこうなのですから、これがもう少し経つとどうなってしまうのか...。たぶん今は高齢化率が20数%に達していると思うのですが、日本全国どんな団地もそういった状況になっているわけです。
蓼原 地域づくりを進めていくにあたって、よく「高齢化しているから何もできない」という話を聞きます。「ここは高齢化しているから無理だ」、「もうこれだけ高齢化してしまっているから、俺たちは何もできないんだ」――と。
私がそういったお話を聞いたときは、いつも先ほど述べた葉山の事例の話をしています。あの地域も高齢化率が高いのですが、お話しした通り元気にやっています。そう考えると、高齢だからといって「できない」という理由がないんですよね。やればできるのです。
それともうひとつ、今日本人は、何か「自慢」ができることが、なくなってきたような気がします。
やはり人というのは、「自慢する」「自慢できるものがある」ということが、すごく心地良いんですよ。ただ、今は物の価値というか欲望――品物が欲しいという欲望、お金が欲しいという欲望、それで自分が幸せになりたいという欲望、そういったものが薄れてきている気がします。その結果、自慢ができるものがしだいになくなっているように思います。
吉田 その意味で言いますと、小倉の「漫画ミュージアム」などは、自慢ができる良い例ですよね。日本のポップカルチャーなんてものは、アジアの人たちにとっては憧れのものです。また、ヨーロッパの人――とくにフランス人なんかは、日本のマンガ・アニメが大好きです。そういったように、この「漫画ミュージアム」が他地域の人々に対して自慢ができるものなんだということが、だんだんと街の人たちにもわかってもらえ始めました。その結果、最近は「受け入れていこう」という姿勢が見え始めました。
やはり、「自慢ができる」ということは、ひとつの新しい価値観なんですね。
蓼原 先ほどの佐藤さんのお話にあった「沖縄・栄町の『おばあちゃんのポスター』」などは、それひとつあれば、おばあちゃんが自慢できるんですね。その「自慢ができる」ということが、ものすごくその人の生きている存在感というか、自信につながっていきます。すると、「まだ、いろいろなことができるんだ」という気持ちになって、いろいろなことにチャレンジしていきます。そのような関係性が成り立つのかな、と思います。
吉田 それが、「地域産物のブランド化」ということにもつながります。つまり、自分が住んでいる地域を自慢するということです。
蓼原 ですから、今葉山の共和国の国民なんかは、毎日自慢しています。視察に来られる方も多いので、それこそ自慢をしながら生活をしています。
吉田 葉山の場合ですと、何が自慢になるのでしょうか。
蓼原 やはり、自分たちの力で元気になってきたことです。
まず、「隣に誰がいるかわからない」というようなことがなくなってきました。地域の人は誰でもよく顔を知っているというように、コミュニティが再生されてきています。
また、今までは空き家がたくさんあったのですが、それを若者向けにリフォームしたところ、そこに若者が入ってくるようになりました。すると、今までは地域から子どもの数がどんどんと減っていたのですが、今度は逆に増えてきています。そうして、若い人や子どもが増えると、やはりまちがにぎやかになりますね。
今までは、「どうせリフォームしても誰も来ないから」ということで、空き家をそのまま放置していたような状態でした。ですが、この葉山という町が注目を浴びてきたおかげで人が入ってくる可能性が高まり、「それならば、空き家を若者向けにリフォームしよう」となると、その効果もあって若者がどんどん入ってきているような状態です。
吉田 それはやはり、地域の価値が上がってきたということになりますね。
蓼原 そうです。いわゆる「地域力」が上がっていったということです。
【坂田 憲治】
<参加者> | |
NPO法人えふネット福岡 専務理事 蓼原 典明 氏 |
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏 |
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(株)地域マーケティング研究所 代表取締役 吉田 潔 氏 |
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