タマホーム(株) 代表取締役 玉木 康裕
<住の価格破壊へ>
「日本の住宅の建築費は高すぎだと思いました。欧米を見てみると、坪単価20~30万円です。日本では60~80万円。安くても40~50万円はかかってしまう。これでは、ゆとりある生活は送れません。どうしても、日本で欧米並みの価格で建てられる住宅をつくりたかった」と語る玉木氏。設立当時、「高品質住宅を低価格で提供する」というのは、単なる"非常識"でしかなかった。この非常識な夢を描き、実現へと向かっていくきっかけとなったのは、玉木氏が筑後興産時代に飲んだ1杯のコーヒー。
ある日、顧客との打ち合わせのために入ったファミレスで衝撃的な体験をする。玉木氏と2人の顧客分の3杯のコーヒーを注文。打ち合わせを終えて、お金を支払う際に「450円です」と言われ、「1杯450円は、ちょっと高いな」と思いつつ、1,000円札を2枚出した。「1枚で結構ですよ」と、お釣りの550円を手渡され、玉木氏は1杯150円だったことに気付く。これに大きなショックを受けたという。
バブル崩壊以降、さまざまな商品において価格破壊が進むなか、食事や衣類など大半のものが安く手に入る時代となった。しかも、品質は以前と何ら遜色ない。
玉木氏は「衣食で出来ることならば、住=家でも出来るはず」と、住宅の価格破壊を決断。当時、坪単価50万円で受けていたものを、半分の24.8万円(消費税別、現在は税込25.8万円)にした。社員からは「専務は気が狂ったんですか」と馬鹿にされ、「この値段で、どうしたら利益が出るんですか」と猛反対を受けた。坪単価50万円というのは、当時の業界における適正価格だった。それを急に半額にしたのだから、そうした批判も「常識的判断」と首肯できる。しかし、玉木氏の決意は固かった。「1杯150円のコーヒーで全国展開が出来て、住宅で出来ないはずがない。必ずやれる」。
一方で確信もあった。「20代のころ、アメリカの大学で聴講生として建築事情を勉強しに行きました。アメリカの住宅の平均坪単価は約30万円なのに、日本よりグレードが高く、ゆとりのある生活をしている人がたくさんいる。ローコスト住宅が、人々の暮らしに豊かさと潤いを与えているということに気付かされました。アメリカで可能ならば、絶対に日本でも出来る。何が何でもやり抜くという決意のもとで始めたのです」(玉木氏)。
<逆境をバネに攻勢に転じる>
その後、同社は飛躍的に業績を伸ばし売上高は9年目には1,000億円を突破し、09年6月期には1,800億円を超え、年間受注棟数も1万個を超えるなど、業界トップクラスの企業へと成長を遂げた。
ところが、サブプライムローン問題に端を発した世界的な金融ショックは、同社も大きく影響を受けた。特に08年9月のリーマン・ショック以降にその影響は顕著に現れた。
「08年12月から翌年の2月の受注がドーンと落ちました。ご存知のように、ウチは受注して回収するのが半年後になります。そのため、09年の6~8月の売り上げが落ちまして、非常にきつかったですね。その後は、8月に1300棟受注しまして、9月が947棟、10月が927棟で、11月が993棟でした。12月が1,000棟前後なので、また1,000棟ペースに戻ってきましたね。だいたい今のところ、上半期の月平均が930棟くらいで、下半期は1,000棟くらいの予定ですから、年間で1万1,000棟~1万2,000棟くらいになります。ですから、ようやく元に戻ってきた感じになります」と玉木社長。
08年の12月、09年の1、2月の落ち込みの影響は大きかった。契約したいとされていた方が、不景気だからもうやめたとか、尻込みするケースもあった。加えて、金融機関の住宅ローンも金融ショックから危機感を持ち、1年前ならローンを組んでいた条件でも、組めないケースが増え、約900棟、150~160億円くらいの受注ができなかった。
玉木氏は、これまで増収を続け、急成長を遂げていただけに、驚き、危機感を抱くこととなった。
「やはり、景気の良い悪いに関わらず常に気が抜けないと言いますか、一寸先は闇と言いますか、常に逆境にも耐えられることを思って経営しなければいけないな」と玉木社長はつくづく感じた。設立以来、成長を遂げていた同社だけに、業績が伸び悩むのは初めての経験で、玉木社長以下、取締役一同、非常に大きな勉強になったという。
東京都杉並で建売住宅を行なったが、これはこれまでの同社のイメージと違うデザイナーズ系の住宅で、屋上緑化を取り入れるなど、新たな試みにも着手したが、申し込みが多く抽選が行なわれるなど、人気を博している。こうしたことも、リーマン・ショックという逆風により、業績の低迷という事態を招いたが、それぞれが知恵を絞り新たに生み出されたものもラインナップとして加わるなど、逆境をバネに攻勢に転じている。
<プロフィール>
玉木 康裕(たまき やすひろ)
1950年生まれ 福岡県出身。福岡大学卒業後、大手セメントメーカー勤務を経て、1897年から続く実家の建設業に従事。78年に筑後興産(株)専務取締役に就任。98年6月に独立して福岡県筑後市でタマホーム(株)を設立して代表取締役に就任。斬新な手法で住宅業界トップクラスの実績を残す企業へと成長させ、業界の織田信長として高い評価を得ている。
<会社概要>
タマホーム(株)
代表者:玉木 康裕
所在地:東京都港区高輪3-22-9
設 立:1998年6月
資本金:7億7,350万円
TEL:03-6408-1200
URL:http://www.tamahome.jp/
※本稿は以下の書籍に掲載されています。
活用法その1 「企業経営の良き参考書」
各界を代表する有名経営者の提言は、これから起業される方をはじめ、現在、経営に携わっている方への良きアドバイスとなるでしょう。経営戦略・人材育成・CSR(企業の社会的責任)など、内容は多岐に渡っており、さまざまな場面でお役に立つはずです。
活用法その2「営業先を知るための予習書」
福岡を中心に各企業の代表がずらりと掲載されている本著は、各経営者の考え方や社歴を知るための予習書として営業ツールに最適です。
活用法その3「福岡の未来が分かる予言書」
「予言書」とは言いすぎかもしれませんが、福岡・九州の発展のために、国会議員、自治体首長、地方議員の方々からいただいた提言も掲載されています。また、深い見識を持つ各業界のトップ・リーダーたちも、福岡のまちづくりに対するアドバイスを行なっています。
活用法その4「就職活動の参考書」
これから社会へ飛び立とうという若者へ。就職後のミスマッチをなくすためにも企業の考え方の違いを知ることは重要です。就職を希望している会社の事前予習にも活用できる本著は、就職活動においても役に立つはずでしょう。
ご購入をご希望の方は、下記リンク先のフォーマットからお申し込み下さい。代金は送料および税込みで2,500円です。
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら