「地域振興」や「まちづくり」を考えるうえで、ポイントとなるものはいったい何か――。3名の専門家にお集まりいただき、座談会を行なった。
<「企業」から「地域」へ>
佐藤 再び先ほどの全体的な構造の話に戻るのですが、経済が成長しているときは、生産人口の大方の人は企業に勤めています。企業のコミュニティに属していることで、ある意味ではすべての生活が保障されていたわけです。
ところが、団塊の世代も含めてその方々が定年を迎えて退職となると、「企業」というコミュニティから「地元」「地域」に戻ることになるわけです。すると、そのときに初めて「地域」というものを見直さなければなりません。あるいは、そこで自分のアイデンティティを、どうやって見つけていくかです。
今までの「○○株式会社の誰々」といったように、企業の名前を背負えなくなるわけです。そこでもう一度、先ほどの「自慢」ではないですけれど、「自分にとってのアイデンティティ」=「地域にどう参加するか」ということが、非常に大きな問題になってきます。
よく言われるのですが、地域づくりのときはどうしても人材というか、「キーマン」となるべき人が必要になってきます。そういう方が地域のなかで「うず」を回しながら、その「うず」に周りを引き込んでいくようなかたちにならない限りは、地域づくりはなかなか難しいのです。
ところが、ここにいらっしゃる吉田さんや蓼原さんのように、皆さんがいろいろとやる方ばかりではないわけです。「企業戦士」だった方が、「明日からすぐに地域のことを」というようには、とてもじゃないですがなれません。
蓼原 私も、元々は企業に長く勤めていました。その経験からも思うのですが、「企業人」という人たちと「地域人」という人たち――その2種類がいるということをまず認識しなければなりません。
ところが、企業の看板を背負い、部下を多く持って長く上下関係の下で指示・命令によって仕事をしていた方が、いきなり定年で地域に戻る――そういうケースが非常に多いのです。
現役の頃は、なかなか地域との関わりというものがありません。そういった方がいきなり地域に戻って、看板を背負った企業人の意識で地域と関わります。ところが、相手は「地域人」なんですよね。地域というのは平等ですから、人の命令によって何かをするという習慣ではありません。また、非常に個性の強い集団でもあります。そうすると、そこで摩擦が起きるわけです。
最近、団塊の世代のいわゆる「家庭内引きこもり」という社会的な問題が、ひそかに増えています。
「引きこもり」と言うと、どちらかと言えば若い世代のものと理解されがちなのですが、これからおそらく顕著に出てくる問題としては、「団塊世代が家庭のなかで引きこもる」というものです。そういったことが増えてきますと、「家庭内破壊」ということもあり得ますし、また地域のなかでそういう家庭が増えるということは、結果的に地域のなかも崩れていきます。
そういう面では、まさに「まちづくり」と、地域リーダーとなるべき団塊世代の方の「意識変革」は、ものすごくカギになってくるような気はしています。
―まさに、人づくりですね。「地域づくりは人づくり」という言葉がありますが、今のお話をお聞きしながら強くそれを感じました。では、「地域をこれから盛り上げていくリーダー的存在は、どうやったら育つのか」というところがすごく課題だと思います。
私のように、外から来て現場を見て「じゃあ、そのために何かしよう」と実践・行動していこうとする人間というのは、いろいろな諸条件もありますし、ベースにある今までの経験もあると思います。しかし、やはり一番大事なことは、技術やそういった類のものではなく、どれだけその地域にコミットできるか――という「心の部分」だと思います。その部分で「心を養うためには、何をしたらいいのか」などを、最近よく考えています。
やはり、今まで都会のなかで行なわれてきた教育――「企業戦士的な考え方」では、地域と関わっていくにあたっては少し難しいのかな、と思います。
【坂田 憲治】
<参加者> | |
NPO法人えふネット福岡 専務理事 蓼原 典明 氏 |
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(株)環境デザイン機構 代表取締役 佐藤 俊郎 氏 |
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(株)地域マーケティング研究所 代表取締役 吉田 潔 氏 |
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