<林原グループの企業体質>
(A)肯定的な見方
(1)バイオ企業としての高い技術力(インターフェロンの医薬品、甘味料のトレハロースなど)
(2)地方の名門企業で圧倒的な資産を保有
(3)中国地区トップの収益力を誇る超優良銀行・中国銀行の株式を10%以上保有する地場有力の林原グループ。
(4)その中国銀行がメインの企業
(5)グループの年商は約800億円
(6)返済原資の収益力がありかつ研究開発費として多額の資金需要もある
(7)林原健社長は藍綬褒章受賞・日本経済新聞に"私の履歴書"を連載するなど、地域・業界を代表するカリスマ的存在。
(B)冷静に見る見方
(1)非上場企業である
(2)林原家の徹底した同族経営
(3)財務諸表や開発投資額などの情報開示が閉鎖的な企業
(4)社員は縁故による採用中心
(5)社長に意見する人材は遠ざける
<推測される経営破綻への軌跡>
(C)メイン中国銀行のジレンマ
(1)中国銀行の筆頭株主であり、トップ同士が親しい関係にあることから融資の審査基準が甘くなりがちになる(融資量約420億円、融資シェア約30%)。
(2)中国銀行以外の金融機関は融資シェアを上げるため、融資競争を展開。対抗上メインの中国銀行も資金需要に応じざるを得ず、総額の借入金が1,400億円近くに膨らんだ。
(3)メインの中国銀行から見れば、このように負債が膨らんだ責任は、都銀をはじめとしたほかの金融機関が積極的に融資攻勢をかけて歯止めが利かなくなったことも一因と弁解するだろう。他方、ほかの金融機関から見れば、中国銀行がメイン銀行としてこのようなことになる前に、企業経営者に適切な情報公開と財務体質の改善計画を求めるべきであったと主張するだろう。
(D)過去の教訓が生かされなかった名門企業
1980年代後半から90年代前半のバブル時代にもあったが、地方の名門企業に対して、都市銀行をはじめとして他行が融資攻勢を仕掛けてきた。不動産投資や過剰設備投資に手を出して倒産した企業は多く、まさに林原は、バブル期に倒産した地方名門企業と同じ軌跡を辿っている。「歴史は繰り返される」の格言通りの結末である。
<事業再生ADRの行方>
30行に及ぶ金融機関との交渉は難航することが予想される。メインの中国銀行がどこまでイニシアチブをとってまとめきれるのか、また融資攻勢をかけてここまで企業体質を悪化させた銀行が責任を認識し、債権放棄に応じるかどうかによって、林原の再生が軌道に乗るかどうか決まる。再生までに、各金融機関の利害関係もあり、紆余曲折が予想される。
【北山 譲】
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