(株)ガリヤ　代表取締役社長　長澤　由起子

＜商業ベースのフリーペーパーの産みの親＞

　今や街で見かけない日がないほど、ちまたではフリーペーパーが溢れている。この広告主体（商業ベース）のフリーペーパーの発案者が、福岡市博多区で『ガリヤ』を発行する長澤由起子社長である。
　ガリヤは1990年２月末に第一号が発行されて、2010年２月で丸20年が経過した。21年目に突入したが、創刊当時のスタッフの多くは独立、なかには新たなフリーペーパーを立ち上げた人たちもいる。創刊からいるスタッフは、長澤社長ただひとり。まさにフリーペーパーのパイオニアであり、生き字引的な存在だ。昨年の11月号のこと、スタッフが大量に離職してしまったため、広告の集広から誌面作りまで、長澤社長ひとりで行なう事態となった。広告の集広は得意であるが、誌面の台割作成や印刷所とのやり取りはかなり久しぶり。悪戦苦闘しながらも、昼夜仕事に明け暮れた。気がつけば会社に寝泊りする日々が続いた。まさに、創刊当時の頃と同じ状況だった。「あまりに寝ないで仕事に没頭していましたので、"死線の先を行く"感覚を久しぶりに体験しました」と長澤社長は当時の状況を語る。『11月号、12月号は出るわけがない』と周囲から揶揄（やゆ）されていたことも、長澤社長の負けん気を奮い立たせた。クライアントのために効果が出る誌面作りとはどういうものか、読者が読んで楽しくなる情報は何か、などを自問自答しながら現場の感覚を掴んでいき、やっとのことで11月号を発刊させた。死線の先を行った心と体はボロボロであったが、発刊した時の充実感は、これもまさに創刊時と同じ感覚であった。

＜ガリヤが必要と思ってくれる人が　ひとりでもいる限りあきらめない＞

　ボロボロの長澤社長を助けるために、ひとり、またひとりとスタッフが加入。みなフリーペーパーを盛り上げたい、ガリヤを復活させたいというアツい志を抱いている。「手はかかるが、気持ち的にはとても楽でした。私自身があきらめればすぐに終わります。ですが、頑張っているスタッフの姿を見るとそう簡単には匙は投げられません。この子たちと一緒に頑張って、発刊できずに潰れることがあっても本望。何も悔いは残りません」。
　束の間のひとときを経て、次の号の発刊体制に入る。気合と意地と根性で乗り切ることの繰り返しの日々が続く。
　しかしながら、昨年、12月号の制作に没頭したことで、翌１月号の仕込みが不十分となる事態が発生した。いつも広告を頂いていたクライアントに訪問する暇がなかったのだ。これにより、長年ガリヤに広告を出し続けていた、とある店舗のオーナーに叱責を受けた。
　「なんで１月号の募集に来てくれなかったんですか！うちのお店はガリヤさんのおかげで大きくなったんですよ！広告を載せてくれなければ困ります」と。お叱りを受けた長澤社長は申し訳ないという思いの反面、嬉しさがこみあげてきた。
　「世のなかに、街のなかに、ガリヤを必要と思ってくださる人がいることがありがたかった。この仕事をあきらめずにやっていて良かった」と振り返る。
　決して余裕はないが、充実した生活を過ごしている。フリーペーパーのパイオニアだが、逆境のなか、今日も元気に街中のお店を笑顔で回る。フリーペーパー業界の発展はこの人なくしては始まらない。

＜プロフィール＞
長澤　由起子（ながさわ　ゆきこ）
1951年、福岡県生まれ。福岡教育大学、福岡大学を中退後、地場大手広告代理店に入社。90年２月、「（株）ガリヤ」を設立。商業ベースでは初めてのフリーペーパー「ガリヤ」を発刊。地域のタウン情報発信を行なっている。

＜会社概要＞
(株)ガリヤ
代表者：長澤　由起子
所在地：福岡市博多区店屋町8-3　ガリヤビル
設　立：1990年２月
資本金：1,000万円
ＴＥＬ：092-262-5100
ＵＲＬ：http://www.gariya.com/

※本稿は以下の書籍に掲載されています。

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