こうした流れを先読みし、ウォールストリートの投資銀行や世界の名だたる投資家たちは、こぞって水道事業の民営化に資金を振り向けるようになっている。こうした投資家の目には水や食糧、そしてエネルギー供給先や鉄道、高速道路など運輸手段などが安心できる投資先と映っているようだ。確実な配当が期待できる上に必要な場合にはいつでも資産を現金化することができる。そんな思いから、水不足や環境悪化はまたとない投資のチャンスと受け止めているに違いない。
地球規模での温暖化現象がこうした水不足に拍車をかけている。河川の水が干上がり、地下水も消失しつつある。さらに残された水源も汚染の波に襲われている。世界の人口は現在の68億人から100億人へと向かって膨張する一方である。必然的に水も食糧も不足する事態が容易に想像できるというものだ。人々の日常生活にも農業や工業にも欠かすことのできない水。その水の供給システムにも老朽化の嵐が押し寄せつつある。
とは言え、これは見方を変えれば、投資ファンドにとっては貴重なビジネスチャンスになると受け止められている。そして、これまで金融や不動産の分野で莫大な富を築きあげてきた世界の大富豪たちの間で水に対する関心が急速に高まってきている。アメリカの石油王TTブーン・ピィケンズ、香港の不動産王リー・カイシン、イギリスの通信王ビンセント・チェングウイッズも先を争うように世界各地の水源地の利権を買いあさり始めた。コカコーラやネスレといった飲料食品メーカーも、世界各地で地下水や湖水の権利を買いあさっている。こうした買収攻勢に後れを取ってはならじ、と投資銀行やプライベート・エクイティー・ファームも年金基金や政府系ファンドと連携し世界の水資源を少しでも多く手に入れようと血眼になっている。
なかでも、アメリカの投資銀行やヘッジファンドのグループは先を争うようにし、水関連の投資や商品開発に乗り出している。ゴールドマン・サックスを筆頭にJP・モルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカに買収されたメリル・リンチ、シティー・グループ、モルガン・スタンレー、ドイツ銀行、クレディ・スイス、香港上海銀行、カーライル・グループ、バークレイーズ・バンクなど名だたる金融機関は世界の水資源争奪戦争において新たな戦士として暗躍を続けている。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。
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