<グローバル化する牛丼戦争>
ゼンショーも松屋フーズは、来期も国内での出店ペースは維持する予定であり、国内の店舗数は純増していく。一方で吉野家は、今期の国内出店が50店弱であるのに対して70店程度を閉店する見通しであり、国内店舗は純減となる。ただし中国を中心とするアジア地区での出店を強化していく方針であり、遠からず国内出店数を海外出店数が逆転する見通しだ。現在でもゼンショーが16店、松屋フーズが2店の海外展開であるのに対して、吉野家はすでにアメリカや中国で約440店を展開している。ゼンショーは海外展開を加速させる方針を打ち出しているが、現在の差は吉野家にとって大きなアドバンテージだ。今後は牛丼チェーン3社の争いがグローバル化していくことは間違いなく、そのなかで中心的な役割を果たすのは、先行する吉野家だ。
牛丼チェーン3社の「牛丼戦争」は、単純に牛丼という庶民的な商品の販売合戦と見るわけにはいかない。牛丼が中核商品であることは同じだが、その経営戦略や方向性は三者三様だ。牛丼業界首位と言われるすき家のゼンショーは、今後さらにM&Aを駆使しながら外食産業グループとして規模の拡大に向かっていく。そうした場合、自ずと牛丼の位置付けは低下してくるだろう。現在でもレストラン事業が牛丼事業を規模的に上回っている状態であり、グループ内での事業の最適化から牛丼事業の位置付けも決まってくるのではないだろうか。
また松屋フーズは、ゼンショーとは対照的に着実に牛めし定食事業を積み上げていくだろう。わかりやすく言えば、牛丼をメインとした定食屋というスタンスであり、業績が急伸することもない代わりに急落することもない。現在の財務内容も良好であり、3社のなかでももっとも安定した業績を残していくだろう。
さて吉野家だが、良くも悪くも牛丼業界の中心は吉野家である。これは前述したように、現在までに同社が辿ってきた歴史、その企業文化の独自性、マニアックなまでの牛丼へのこだわりが広く一般にまで浸透しているため、圧倒的なブランド力を誇っているからだ。一企業の経営戦略が、社会現象にまで広がったBSE問題は、商品としての牛丼にファンがいるだけでなく、吉野家という企業にファンがいることを再確認させるものだった。こうした面から、規模はすき家に追い抜かれても、常に牛丼戦争の主役は吉野家として語られるのである。業績も10年第一四半期を底に回復してきており、当面は好調な業績を残していくだろう。
忘れてはならないのは、この3社が牛丼という商品のカテゴリーを軸に切磋琢磨し、低迷する国内景気のなかで健闘を続けてきたことだ。3社の競い合いが牛丼の市場、ひいては外食産業の拡大に寄与した面は否定できない。3社の今後の競争は、国内を飛び出しグローバル化の中で行われていくことになる。とくに中国を始めとする新興国市場は、経営戦略上、重要な戦略エリアとなるだろう。3社とも日本を代表するナショナルチェーンから世界企業への変貌が求められている時代なのだ。
【緒方 克美】
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