日本航空(JAL)再建の成否を握るのは、京セラ名誉会長の稲盛和夫JAL会長である。自民党運輸族に過度に依存してきたJALは、民主党の主要政治家にパイプがない。民主党政権の後見人として政権の要路に顔が利く稲盛会長は、その点、実に頼もしい限りだ。
78歳と高齢の稲盛氏は、2010年2月に三顧の礼をもってJALに迎え入れられた際に、住まいと京セラ本社のある京都中心の生活を改める意思はなく、週に3日程度しかJALには出社できない、と言っていた。しかし、実際に就任すると、帝国ホテルに暮らし、ほぼ毎日、東京・天王洲のJAL本社に出社している状態だ。朝8時には出社し、退社はたいてい夜9時を過ぎる。昼食は社員食堂で社員と一緒に食べるというのがパターンになっている。スケジュールもびっしりで、JAL生え抜き幹部職員のルーズな働き振りとはずいぶん違う。さすが、裸一貫から売上高1兆円の国際企業に育て上げた立志伝中の事業家ならではある。
「決してお飾りではありませんね。幹部人事や経営体制の刷新など重要なことは稲盛さんが決めています」―事業管財人でJALに3,500億円を出資する官製ファンド、企業再生支援機構の幹部はそう言う。JALはこの1月、昔のマークだった「鶴丸」を復活させることを決めたが、これもかつてのJALに愛着をもつ稲盛氏の意向が強く働いたためという。JALの歴代社長は旧運輸省などの天下り組か、企画や労務、営業など社内の有力部門の代表者が就くことが多く、結果的にJAL社内は縦割り組織の「連邦」体制となり、求心力のある事業家が経営の責任をまっとうした例がなかった。稲盛氏が初の事業家的な経営者なのである。
ただし、すべてのことが稲盛氏のトップダウンというよりも、重要な案件は稲盛氏、瀬戸英雄企業再生支援委員会委員長(弁護士)、中村彰利会長補佐(企業再生支援機構専務)、水留浩一副社長(企業再生支援機構常務)、京セラ出身の森田直行副社長で決める集団指導体制になっている。注目に値するのは、JAL生え抜きの大西賢社長が実質的に重要な経営判断の蚊帳の外におかれている点だ。「大西さんには空港におけるVIPの接遇や経団連やお客さまへのあいさつ回りをお願いしています」(企業再生支援機構幹部)といわれ、お飾りはむしろ彼のほうなのだ。整備部門一筋に歩み、JALを倒産させた西松遥前社長ら旧経営陣に引き立てられてきた大西氏は、稲盛氏や支援機構の幹部からすると、頼りなく見られがちだ。
JALは昨年12月15日、役員体制を一新し、京セラから3人の役員を招聘した。稲盛氏の信任が厚く、稲盛氏の生み出した京セラ特有の経営管理思想「アメーバ」の伝道役を務めてきた森田直行氏(京セラコミュニケーションシステム会長)が副社長に就き、経営管理と調達、関連会社の担当となった。さらに稲盛氏の秘書を長く務めた側近中の側近である大田嘉仁京セラ取締役を専務に起用し、JAL社員の意識改革推進担当に据えた。やはりアメーバに精通した米山誠京セラコミュニケーションシステム取締役は執行役員経営管理本部長に就任。JALの宿患といえる採算意識の欠落を埋めるべく、収支をつかさどる経営管理部門のラインを京セラが握ったのである。
【特別取材班】
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