西南学院大学 商学部教授 立石 揚志
<福岡の立ち位置を明確にすべき>
福岡市の広報誌には右上に最新の市内人口が明記されており、このところ145万人を超えて、146万人に近付いている。数年前から何度か海外の雑誌などで、アジアのなかの魅力的な都市として福岡が取り上げられたのは記憶に新しい。最近のある調査でも、今後も若者人口が増加し、商業都市として将来は明るいとの見通しが示されている。これは、行政やわれわれ市民たちが意識して、あるいは明確な地域戦略を持って努力した結果なのだろうか。どうもそうではないように思えてならない。
確かに、1989年のアジア太平洋博覧会は福岡市の顔をはっきりとアジアに向けたものであった。それに合わせて整備されたハードは福岡市だけでなく九州地区の財産であり、一定のソフトも残され継続されているものもあるようだ。しかし、振り返ってみるとやはり一過性のお祭りに終わった面が強いようだ。現在は行政も市民も新幹線駅や商業ビルが増える街のにぎわいのなかで、"なんとなく"福岡の行く末は明るいと思っているのではないか。
福岡は「将来何で食べていけるのか」は過去に幾度も議論があった命題である。ここで改めて認識しなければならないのは、周辺地域や世界の状況は一変し、従来型の工業社会の常識では通用しなくなったということである。福岡県も含め、この地域が企業誘致などで繁栄する時代ではなくなったのである。ましてやグローバル企業などを誘致すれば地域が深刻なリスクを背負うことになることはすでに痛いほどわかっているはずである。九州のなかでの福岡の立ち位置を明確にすべきときである。
<九州全域の活性化が福岡の発展につながる>
九州は豊かな自然に恵まれた大農業地帯であり、別の言い方をすれば、フードアイランド、自然エネルギー基地、環境先進地として生きていける場所である。これからは農業(稲作などの穀物、畜産、水産、林業)の6次産業化に多角的に取り組み、加工部門、流通部門、そして販売部門とITとの融合で高度化を目指す。これまで蓄積された高度な技術や研究成果をこの農業の6次産業化へ集中して投入するのである。
たとえば、高齢者も中山間地で使えるような全く発想の異なる農機具の開発などもそのひとつであろう。そして、この温暖な気候、多様な食文化と温泉、清らかな水を売り物に、大観光地帯として九州全体を世界、特にアジア・中国にアピールすることだ。福岡は九州全体の窓口あるいは世話役として南九州を含めた各県・地域の信頼を得る努力をすべきだ。
福岡・博多都心部の魅力アップも必要だが、福岡が本当に九州全域の活性化を考えて行動することが結局は福岡の将来の発展につながるはずである。クルーズ船客の財布をあてにするような姑息な手段を考えずに、これからは滞在型、交流型の中国人観光客、さらには外国人居住環境の改善まで視野にいれた戦略が必要な時代になってきた。それには、ビザや言葉の問題、留学生を含めた人材の育成など多くの課題はあるが、意識して取り組めば遅すぎることはない。
山は青き故郷、水は清き故郷、豊かなヒンターランド(後背地)九州をアジアと結びつける都市を目指して、行政と市民が知恵を出し合い、福岡の将来像を描く場を作りたい。
<プロフィール>
立石 揚志(たていし ようじ)
1940年8月17日上海生まれ(本籍地、福岡県)。64年、東京外国語大学中国科を卒業し、「丸紅(株)」に入社。同社大連支店長兼瀋陽出張所長を務め、92年退職。同年、「(有)九州新アジアセンター」代表に就任。95年より「(株)アジアビジネスセンター」常務取締役を務める。94年、西南学院大學商学部助教授、98年に同学部教授に昇格、03年4月から「(財)福岡県中小企業振興センター」国際取引特定相談員を務めるなど社会活動も多数。趣味は晩酌と孫とのテニス。
<著書・論文>
「海外直接投資と貿易」西日本法規出版(03年3月)単著。「海外直接投資とアジアの貿易循環」ふくろう出版(07年3月)単著。「グローバル化と福岡市の未来」㈶福岡アジア都市研究(07年9月)。「新段階の中国経済」西南学院大学商学論集(08年3月)。「中国動向分析2009年」西南学院大学商学論集(10年3月)他、多数。
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活用法その1 「企業経営の良き参考書」
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活用法その2「営業先を知るための予習書」
福岡を中心に各企業の代表がずらりと掲載されている本著は、各経営者の考え方や社歴を知るための予習書として営業ツールに最適です。
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