中国自身も環境問題にようやく取り組み始めているようだが、事態は楽観できるとは言い難い。なにしろ、中国では河川、湖沼、海洋への汚染物資の投棄が日常化している。工場、農場、家庭を問わず、使用後に浄化処理がされている水は2.7%に過ぎない。土壌汚染も進み、地下水の有毒化が大きな社会問題となっているほどだ。
我が国としても、中国の水問題に持てる技術力や資金力をどのようなかたちで投入すべきか早急に結論を迫られている。なぜなら、汚水の浄化技術をはじめ、節水やリサイクル技術は日本の十八番にほかならないからだ。日本の水関連企業への期待は高まる一方である。日本政府としても、環境ODAという新たな分野として中国を位置付けようと検討を進めている。日中関係を深化させるチャンスでもある。
また、目を世界に向ければ、水をめぐる国際紛争も各地で火を噴く可能性が懸念されている。中東、アフリカではとくにその危険性が高くなっている。中国とインドの間でも同様であるし、インドシナ半島ではメコン川の水利権をめぐる紛争対立が解消されないまま一触即発状態が続いている。
水なくして農業は成り立たない。食糧を育てるのにも必要だが、食品を加工するにも多量の水が欠かせない。世界最大の人口を擁する中国の水問題は、世界の食糧事情にも類を見ない影響を及ぼし始めている。水不足が農業生産を困難にし、中国は世界中から食糧を輸入しだしたからである。その結果、穀物はじめ食糧価格が高騰している。レスター・ブラウン博士の研究では、「2030年までに中国は2億トン以上の穀物を毎年輸入せざるを得なくなる」と予測されている。これは現在の世界の穀物市場の総量に匹敵する。要は、中国が全世界の穀物をすべて食いつくすというわけだ。
また、我々の近代生活にとって上下水道は絶対的な必要条件である。あらゆる産業や文化的な生活に、水は最も重要な役割を担っている。電力を起こすためにも水は欠かせない。自然や動植物の生命維持にも不可欠である。我々は石油を使わなくとも生き延びることは可能であろうが、水なくしては生き残ることは不可能だ。農業も食糧生産もあらゆる生産活動や地球の生命維持装置そのものが機能しなくなるほど、水は命の源と言えるだろう。その水が世界的に枯渇し始め汚染も深刻化しているわけだ。
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。
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