市民の情報公開請求権は、憲法が保障する基本的人権である「知る権利」に基づく権利ですが、私は、この「知る権利」の概念からは、「市民の情報公開請求は目的を問わない」という考え方はストレートには導き出せないと考えています。
なぜなら、「知る権利」は、現代社会において「国民の民主政治への参加」を保障するために認められた権利ですから、その権利を行使するためには、なにかしら「政治参加的な目的」を必要とするという考え方も、論理的には十分成立し得るからです。
そこで、「市民の公開請求には目的を問わない」という考え方を裏付けるためには、「知る権利」からのアプローチに加えて、さらに別のアプローチが必要となってきますが、それが「行政の説明責任(アカウンタビリティ)」という考え方です。
まず、「行政の説明責任(アカウンタビリティ)」の内容についてですが、元来は、「受託者が委託者に対して負担すべき会計責任または説明責任」であるとか、「事業体の業績結果を会計面で明らかにできる責任体制」であるといわれておりましたが、近年、この考え方が、行政機関と国民(市民)の間に持ち込まれるようになりました。すなわち、「行政の説明責任(アカウンタビリティ)」は、「国民主権主義」を背景として、「市民から厳粛な信託を受けた行政機関は、委託者である市民に対し、新たな政策や既存の政策の進捗状況などを常に明らかにしていく責任がある」と理解されるようになっています。
日本国憲法の前文を見てみますと「・・・・・ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する・・・・・」とあります。
「信託」とは、「信用して委託すること。他人をして一定の目的に従い、財産の管理・処分をさせるため、その者に財産権を移すこと」をいいます(広辞苑第四版)。
この定義を「市政」に当てはめると、「市民が行政機関を信用して市政を委託すること。市民が行政機関をして一定の目的に従い、財産の管理・処分をさせるために、行政機関に財産権を移すこと」となります。
とすれば、「行政機関が保有する情報は、行政機関だけのものではなく、市民と共有の財産である」というよりも、もっと踏み込んで「行政機関が保有する情報は、そもそも市民の財産であるが、市民の信託を受けて行政機関が保有している」ということになります。
≪ 第18回「「情報公開」と「知る権利」・「説明責任」」 |
<プロフィール>
寺島 浩幸 (てらしま ひろゆき)
福岡県立修猷館高校、福岡大学法学部法律学科を卒業。1987年に福岡市役所入庁後、総務局法制課、人事委員会任用課、情報公開室係長、市長室経営補佐係長、議会事務局法制係長などを歴任し、2010年8月退職。在職中、主に法律関係の職務に従事するとともに、市長直属の特命業務や議員提案条例の支援を担当するなど、市長部局と議会事務局の双方の中枢業務を経験。
現在は、行政書士事務所を開業して市民の身近な問題の解決をサポートするとともに、地域主権の要となる地方議会の機能強化を目指し、議員提案条例アドバイザーとしても活動中。
<主な実績>
・日本初の協定方式による第3セクターの情報公開制度の条例化
・日本初のPFI事業(タラソ福岡)の破綻再生
・日本初の「移動権(交通権)」の理念に立脚した議員提案条例の制定支援
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