櫛田神社で歌舞伎役者が豆をまく恒例の節分行事が行なわれた2月3日。「今年は、反省の意味を込めて海老蔵さんが、特例で鬼の役でもしないだろうか」と、冗談を飛ばしながら、友人と中洲へ足を運んだ。そんなことやったら正真正銘の『傾奇者』である。
すると中洲大通では、やたらと目につく格好をした女の子たちが、闊歩しているではないか。傾奇者!? そこで小生、はっと気がついた。いいや、これは『お化け』だ!
『お化け』とは、正しくは節分の翌日の4日に限り、花柳界の芸者さんたちが普段の着物ではなく、好きな衣装を着てもいいという風習から発祥したもの。中洲では4日に限らず、その前後の日、あるいは一週間、飲み屋の女の子たちが好きな格好をする。言ってみれば中洲のハロウィンみたいなものだ。数万円もかけて『花魁』の格好をする子もいれば、女子高生やナースといったコスプレに走る子もいる。
しかし、景気の悪さもあってか、ちょいと寂しい。ひと昔前よりも、『花魁』の数が減り、安易なコスプレが増えたような気がするのだ。今は、コスプレ専門店も珍しくはなく、常連でない限り、店の雰囲気がいつもと違うことに気づかない場合もあるだろう。
そんなことを考えながら、いつもより少し賑やかな中洲大通を歩いていると、某店長からメールが入った。「女の子たちが花魁の格好をする日なのですが、なぜかわたくしがバカ殿様の格好をするはめに・・・」。
面白そうなのでのぞいて見ると、カウンターの向こうに実にふざけた格好をしている店長の姿(写真参照)があった。今のご時世、3万円以上もかかる『花魁』は、自腹はもちろん、5人の女の子が全員やるのは厳しいということで、店長が代表して『バカ殿様』になったという。それでも1万5千円はメイクと衣装に費やした。
何はともあれ、こうした時節を感じさせるイベントは、いつまでも続けていってほしいものだ。『バカ殿様』が差し出した恵方巻きを南南東に向かってかぶりつきながら、「景気がよくなって、来年はもう少し花魁さんが増えますように」と、願った。
【長丘 萬月】
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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