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SNSI中田安彦レポート

欧米有力英字新聞Financial Times から世界を読む(2)
SNSI中田安彦レポート
2011年2月 8日 07:00
国際政治経済評論家 中田安彦(SNSI研究員)

 エジプトの場合、それがホスニ・ムバラクであったわけだが、より直接的にはムバラクが騒動勃発の後、副大統領に起用した、オマール・スレイマンという人物だろう。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン(IHT)紙(1月29日)によると、スレイマンは1993年以来ずっとエジプトの諜報機関GISを指揮してきた男で、ムバラクと同様にイランを嫌悪し、イスラエルとはあまり事を構えない、アメリカとは良好な関係を保ちたい、という考えの持ち主だという。アメリカのもうひとつの同盟国であるパキスタンの情報組織ISIもソ連との冷戦の時に反共ゲリラとしてアメリカから指導されてきた。ISIはアメリカと武装集団タリバンの両方に「いい顔」をしていると欧米メディアは報じてきた。要するに戦後世界のアメリカ世界覇権は道義的に腐敗していようが地域のパワーバランスを無難に保てることを約束した国家指導者を支えるということで成り立ってきたのだ。

 この微妙な均衡が崩れたのが911事件だった。昨年暮れに亡くなった、アメリカの政治学者のチャルマーズ・ジョンソン博士は、上で述べてきたようなアメリカの独裁者支援による世界覇権の現状を冷酷に見つめてきた人物だった。ジョンソン博士は、もともとは中国研究をしていたが、やがてアメリカにとって「反共の防波堤」(bulwork against communism )となり、その代わりに戦後経済成長を遂げた日本の官僚組織の研究者となった。『通産省と日本の奇跡』(TBSブリタニカ・刊、絶版)は、戦時中の国家総動員体制から以下に通産省が産業政策という手法を使って戦後の復興を指導したかということを詳らかにした本である。その後、ジョンソンはアメリカが85年のプラザ合意以降に日本を"仮想敵国"にしたアメリカの戦略会議にも参加しているが、90年代初頭にアメリカ支配層への「決別」を宣言、911事件の後はアメリカの戦後の外交政策を左派の立場で糾弾するようになった。その際にジョンソン博士が著書のタイトルにも使ったのが「ブローバック」(Blowback ゆり戻し)という言葉だ。

 もともと、ブローバックとは諜報機関の専門用語である。これはある国家の情報機関が大衆の目に触れないように行った秘密工作(covert operation)がもとで、工作を受けた被害者の側からの「しっぺ返し」を受けるという意味である。2001年の同時多発テロ事件については、どの程度ブッシュ政権がテロの情報を事前に察知していたか、あるいは世界貿易センタービルの崩壊の仕方にきわめて不自然な点があることから、アメリカはまだ多くの情報を隠蔽している可能性はあるが、これもひとつのブローバックといえるだろう。

(つづく)

<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。


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