<競争力を欠くブランド&テナント>
博多阪急は11月の概要発表で、具体的な導入ブランドやテナントの公表を避けた。ただ、12月にJR博多シティを運営する「博多ターミナルビル」がテナントの人材を一括で募集。採用企業の詳細が就職情報誌に掲載され、合同会社説明会が開催されたことで、図らずもブランドやテナントはほぼ明らかになった。
博多阪急は「うまか研究所」と銘打った料理教室や、育児中の親が子育てを専門家から学ぶコミュニティールームなど生活情報の提案・発信に力を入れてはいるが、ブランドやテナントの顔ぶれを見る限り、商業施設の開業では定石の「九州初上陸」「福岡初出店」といった冠がつくもので、驚くほどのものがない。
それどころか、売上げの核を握るファッションはラルフ・ロレーンやユナイテッド・アローズ、アバハウス、ディンプルなど、大半が天神にあるものだ。
ただ、これはある程度、予想はついた。阪急百貨店がいくら伊勢丹と並ぶ、高級百貨店と言っても、所詮は百貨店に過ぎない。マーチャンダイジングはファッションを中心にアパレルメーカー任せ、自主編集売場は洋品や雑貨、デパ地下などだが、人気ブランドになるとテナントを導入せざるを得ない。
大阪のうめだ本店も国内外の高級ブランドを揃えるが、デパ地下の食品などを除けば、ほとんどがすでに福岡のどこかの店舗で購入でき、別に珍しくも何ともない。しかも、福岡では伊勢丹と三越の経営統合により、岩田屋三越が発足した。こちらはそれぞれの特徴を生かし、地域一番店のポジションを確立するために行動を開始。そのなかで当然、博多阪急への対策も考え、先手を打っていた。その結果、博多阪急にはすでにあるブランドやテナントによる構成にしかならなかったようである。
<地域三番店という厳しい経営>
採用情報によって博多阪急の全貌が明らかになるに従い、地元消費者の間からは落胆の声が聞かれた。その多くが「期待したほど新しいブランドがない」だった。 博多阪急側もこうした反応は予測していたようで、今年1月には子供服とシニア向けフロア概要を発表。子供服では「イペールシックTOKYO」など、九州の百貨店初となる7ブランドが出店。シニア向けの「チャーミングプラザ」は、面積2,200m2国内最大級の広さを誇る。
しかし、基本的なマーチャンダイジングは購買層の中心を捉えるほどの競争力を持たず、少子化で縮小する子供服とリタイアした団塊世代向け商品が、どれほどに売上げに貢献できるかについても、まったくの未知数と言わざるを得ない。
もっとも、博多阪急は福岡では岩田屋三越、博多大丸に次ぐ地域三番店になる。 百貨 店業界では、基幹店級の売場面積は5万m2以上が標準という"巨艦主義"が取られてきた。新宿伊勢丹も日本橋三越も巨艦だからこそ、競争に勝ち残ったと言われている。
ところが、博多阪急の売場面積は基幹店の標準を下回る4万2,000m2。高島屋の出店 が破談になったのも、このクラスの面積が確保できなかったからと言われている。また、福岡のように複数の百貨店が立地する商圏では、 地域一番店のみが利益を確保 し、二番店は損益ギリギリ、三番店以下は赤字に落ちるのが一般的だ。福岡玉屋が閉店 を余儀なくされことがこの構造を如実に物語る。
集客力に優れた地域一番店には、必然的に有力な取引先や魅力的なブランドが集まる ため、売場の魅力が高まり、さらに集客力が高まるというポジティブスパイラルが働く。となると、地域三番店の博多阪急は、開業前から厳しい経営を強いられることになる。
【釼 英雄】
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