今回、アメリカとエジプトやチュニジアの政権とアメリカの「非神聖同盟」が明らかにかなったきっかけは、例の「ウィキリークス」が世界中にインターネットを通じてぶちまけた、アメリカにある各国大使館発の秘密公電の暴露である。チュニジアだけではなくエジプト、イエメンといった、イスラム過激派の温床となっているとされる国々に関する各国大使の「本音」が暴露されたわけだ。この公電を"解説"するウィキリークスの配信記事がツイッターで流れてきた。
この解説記事によると、05年の段階ですでに、スレイマンについて、「05年の9月にムバラクが1981年以来空席だった大統領に指名する可能性がある」とスクープした、英国FT紙のスクープ記事について大使が報告する体裁をとっているのが興味深い。この外交メモに続いて06年には、アメリカがスレイマンらとイスラエルが交渉相手にしていないハマスをパレスチナ和平交渉でどのように排除していくかということも報告の対象になったという。前出のIHT紙の記事には、スレイマンが「エジプトはアメリカのパートナーだ」と語っていたという別の外交公電について触れられている。スレイマンがパキスタンのISIと同様にエジプトの情報機関を代表してアメリカのCIAとのパイプになっていたのは間違いないようだ。
ところで、1月31日にアメリカ国務省はエジプトに特使として、フランク・ウィズナーという元駐エジプト大使を派遣した。この人物の名前は戦後の日米関係を研究する人物にはオッと思わないではいられない名前である。アメリカは戦後、日本を反共の防波堤として育成するとして決めて以降、従来のマッカーサー総督の路線ではない、アメリカのロックフェラー財閥系のネットワークに属するコネクションを重用した。
アメリカの左翼ジャーナリストで角栄金脈事件のころ大きく日本でも雑誌に名前を取り上げられた、ジョン・ロバーツという人物がいる。この人物の代表作に『軍隊なき占領』(講談社+α文庫、絶版、森山尚美・訳)という大著がある。このなかにはマッカーサー以降、岸、中曽根の時代に至るまでの日本の保守人脈とアメリカの「非神聖同盟」のあり様が赤裸々に描かれている。このなかに「ウィズナーのウィルツァー」という相関図がある。このウィズナーは1909年生まれのフランク・ウィズナーで、1938年生まれのウィズナー(今回特使として派遣された元大使)はその息子である。(戦後のCIAの対日工作に詳しい元共同通信の春名幹男氏はすぐに注目しておられた。)
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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