<経営統合でも難しい不振脱却>
2008年10月、H 2Oリテイリングと高島屋は、2011年までに経営統合することを発表。これにより、傘下の阪急阪神百貨店と高島屋の総売上高は1兆5,000億円強と、首位の三越伊勢丹ホールディングスに肩を並べることになった。
百貨店ではそごうと西武百貨店(セブン&アイ・ホールディングス)、大丸と松坂屋(ジェイフロントリテイリング)など大手同士が次々と統合し、規模の拡大と経営効率を追求していただけに、今回の統合も当然の成り行きだったのかもしれない。
ところが昨年3月、両社は突然統合中止を発表した。急変する経営環境のなか、異なる企業風土や経営戦略をすり合わせることに多大なエネルギーを投入するよりも、それぞれビジネスモデルの再構築を通し、質的な向上を図っていく方が得策という理由だった。
もっとも、背景には一連の百貨店再編劇でも、百貨店不振に歯止めをかけることができないことがある。百貨店業界では、08年の金融危機を契機に消費は低迷。さらに、消費構造の変化が不振に追い打ちをかけた。
経営統合で共同仕入れによる利益率の向上、事務などスタッフ部門のコスト削減などは図られるが、統合したどの百貨店も営業力の回復、利益構造の改善にまでは至っていない。
何より、消費者の変化が大きい。ユニクロやザラといったSPA(製造小売業)、100円ショップ、インターネット販売など、価格に対して高い価値を提供する業態が勢揃いした今、消費者は百貨店を特別な存在とは見なさなくなっている。
根本的に百貨店の経営を見直さなければならないわけで、それには企業風土や経営理念が違うもの同士では難しいから、統合中止を選択したようだ。
<統合中止がもたらす福岡攻略への影響>
高島屋にとって、「福岡進出は悲願」と言われている。すでに関連会社の「東神開発」を通じて博多リバレイン内のイニミニマニモ運営にも参画しているだけに、H 2Oリテイリングとの統合中止は福岡本格進出の道を狭めたことになる。
一方、H2Oも東神開発の力を借りて博多駅周辺とのネットワーク構築を表明していた。同社は旬のテナントリーシングには長けており、博多阪急にそのノウハウを活用すればテナント問題も解決できただろうから、非常に痛い話だ。
実例をあげよう。博多阪急のテナントは、そのほとんどが既存店である。新規テナントの争奪戦は福岡パルコが進出する前から展開されており、天神の各商業施設やキャナルシティ博多との間で、苦しい戦いを強いられたのは言うまでもない。
キャナルシティ博多を運営する福岡地所は、増床計画でファストファッションを中心にリーシング。スウェーデンブランド「H&M(ヘネスアンドマウリッツ)」の九州初出店を実現させたと自負するが、ファッションリーダーの注目はもう次の業態にある。
ファーストリテイリングがミーナ天神に誘致したロサンゼルスのセレクトショップ「キットソン」もその一つ。店名は知らずとも、あの沢尻エリカが表参道店で買物したニュースをご記憶の諸兄は多いはずだ。
この店舗と並んで注目されているのが、「ロンハーマン」。ファッション上級者向けのセレクトショップで、ロサンゼルスのほか、日本では東京・千駄ヶ谷、二子玉川の高島屋に出店し、成功している。高島屋がリーシングできたのは、東神開発の存在抜きには語れない。
H 2Oにとって高島屋と経営統合していれば、ロンハーマンを誘致できるかもしれないわけで、博多阪急は強力な集客装置を逃すことに、悔しい思いでいるのではないだろうか。
【釼 英雄】
*記事へのご意見はこちら
※記事へのご意見はこちら