父ウィズナーは、CIA長官のアレン・ダレスの側近を務めた男だった。ウィズナーはOPC(政策調整局)のトップでこれはダレスの直属機関だった。日本担当ではACJ(対日理事会)というものがあって、マッカーサー総督追い落としに雑誌「ニューズウィーク」を使ったりにしたこともあった。この息子ウィズナーの派遣を伝えたブルームバーグの日本語版の記事では、「AIGの元副会長で元駐エジプト大使」として紹介されている。ところが、海外の新聞記事を渉猟したところ、スレイマンとウィズナーのネットワークを伺わせる記事がいくつか出てきた。このなかでもっとも重要なのは2005年にアメリカ最大のシンクタンク外交問題評議会(CFR)のインタビューにこの息子ウィズナーが答えているものだろう。
このなかでウィズナーは、「ムバラクが65%の票を獲得するだろう。エジプトの国民は政情不安定を望まないはずだ」とインタビューに答えているのだ。
このウィズナー、経歴を調べてみると、現在はアメリカの大手ロビー会社のパットン・ボッグスに所属しており、同ロビー会社はエジプト政府と顧問契約を結んでいたことが分かった。このことはロビー会社の公式ウェブサイトに掲載されている。つまりエジプト政府にアドバイスする立場にあったわけだ。
ウィキリークスはアメリカの歴代政権とムバラク政権の「非神聖同盟」の姿を暴きだした。エジプト騒乱が起こってからはウィキリークスの公式ツイッターは、特に中東の政府公電をセレクトしてツイートしている。ウィキリークスの背後に一体何があるのかということも興味深い問題だが、今回は触れない。ただ、イギリスの石油会社BPの不祥事についても公電を暴露していることからイギリス財界(ロスチャイルド)の差し金であるという巷の陰謀説は魅力的だが、必ずしも根拠があるとは言えないと思う。
このエジプト騒乱一体どこまで行くのか見当もつかないが、鍵を握っているのは、民衆とムバラクの間に存在している軍隊という「官僚組織」である。彼らはムバラクとエルバラダイの間の綱引きを淡々と見つめているに違いない。これは、自民党と民主党が争っているのを冷淡に値踏みしている日本の「霞が関」という構図とどこか似ている気もする。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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