福岡市役所が平成23年度の予算案を公表しました。
一般会計は、約7,661億8,000万円で過去最大規模となっており、市債発行額も昨年度よりも36億円増加し、720億円の借金をすることとなっています。
高島市長は、この予算案を「120点」と自画自賛していますが、少し心配な感じもしております。
まず、評価したい内容は、「保育所の待機児童の解消」や「特別養護老人ホーム入所待機者の解消」、「子宮頸がんワクチンの公費助成」など少子高齢化・人口減少社会に適合した施策に予算を組んでいるところです。
また、「那珂川水上バス推進事業」や「二階建てバスを使った観光回遊バス」、「無線LANの環境整備」など、観光資源や情報環境の整備に予算的手当をしているところも共感できます。このような分野は、今後の福岡市の活力の素となると考えています。
一方で、危惧しているのは、「地下鉄七隈線の延伸」、「市民会館の再整備」、「千早駅前の公共施設整備」、「新たな展示場などの検討」、「第二産学連携センターの整備」など、昔の自民党政権時代のハコモノ・ハード系公共事業にシフトしているかのような印象を受けることです。
ハコモノ・ハード系の公共事業がすべて悪いわけではありませんが、景気刺激策としてかつてのように重視してしまうと、高度成長時代の旧弊に回帰してしまう危険性をはらんでいるように感じます。
現在は、少子高齢化、人口減少、経済の低成長、市民の価値観の多様化といった特徴を有する「成熟社会」です2025年以降は、福岡市の人口も減少していくことが予測されています。将来にわたって、こどもたちの時代においても、必要とされるものかどうか、しっかりと精査する必要があります。
これまでのハコモノ・ハード系の公共事業は、どうしても「甘い需要予測と過大な投資」に陥りがちでした。今後はぜひ、「厳しめの需要予測と最小限の投資」で臨まないとあとあと禍根を残すことになります。
720億円の市債の発行についても、後で国が地方交付税で手当してくれる臨時財政対策債だから大丈夫だという説明に聞こえますが、国の地方交付税特別会計はすでに厳しい状態ですから、空手形になりかねない状況です。そのあたりもしっかりと検討して、堅実な財政運営を望みたいと思います。
生活保護費だけで732億円となり、一般会計の1割になろうとしているように、保健福祉関係の歳出の伸びが著しく、大変困難な財政運営を迫られている状況ですが、しっかりと財政支出の有効性を精査して、次代を担うこどもたちに禍根を残さないように頑張っていただきたいと切望しております。
【寺島 浩幸】
<プロフィール>
寺島 浩幸 (てらしま ひろゆき)
福岡県立修猷館高校、福岡大学法学部法律学科を卒業。1987年に福岡市役所入庁後、総務局法制課、人事委員会任用課、情報公開室係長、市長室経営補佐係長、議会事務局法制係長などを歴任し、2010年8月退職。在職中、主に法律関係の職務に従事するとともに、市長直属の特命業務や議員提案条例の支援を担当するなど、市長部局と議会事務局の双方の中枢業務を経験。
現在は、行政書士事務所を開業して市民の身近な問題の解決をサポートするとともに、地域主権の要となる地方議会の機能強化を目指し、議員提案条例アドバイザーとしても活動中。
<主な実績>
・日本初の協定方式による第3セクターの情報公開制度の条例化
・日本初のPFI事業(タラソ福岡)の破綻再生
・日本初の「移動権(交通権)」の理念に立脚した議員提案条例の制定支援
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