<苦節10年、今年はブレークする>
(株)テムザック(本社:福岡県宗像市)は、2000年に設立された。同社のロボット開発・製造業として時代の先端を走ってきた役割は誰しも認めてきたのだが、ビジネスではそう簡単に事が運ばなかった。事業が軌道に乗るためには『時代の波の後押し』が必要である。フロントランナーを担ってきた同社の10年間は「血反吐を吐く苦しみ」の連続であった。給料が払われない、遅延することが日常茶飯事であったのだ。苦しさを顔に表わさずニコニコしている高本陽一社長の下には20名からの社員がついてきた。全員がロボット開発に従事することを生きがいにしてきたのである。「失礼ながら高本社長!!これは経営ではない。宗教普及活動ですな」と喝破したこともある。
10年間の産みの苦しみからようやく解放される春が訪れたようだ。テムザックは薬品メーカー『興和』(本社:愛知県名古屋市)と電気自動車(EV)の開発・製造・販売を行なう共同出資の新会社『興和テムザック』(本社:福岡県宗像市)を設立した。いよいよ本格的なビジネス展開のチャンスが到来したのだ。今回の出資会社設立の例だけではない。これはほんの一例に過ぎない。いままで種まきをしていた案件が一挙に芽を吹きだし始めるのだ。
<もう日本のことはどうでも良い、世界人類の貢献に尽くす>
高本社長は10年間を振り返って深く反省する。「あまりにも日本のことばかりを考えていたのが失敗だった。世界人類のために貢献する理念を明確化しておけば早いうちに事業化に漕ぎつけられていたのだが」。要は日本に愛想尽かしたのである。たとえば日本政府の直轄組織に『産業革新機構』というものがある。設立は2009年7月で出資金1,020億円。政府出資が920億円、政府保証額8,000億円におよぶ。技術確かなベンチャー企業に融資することが最大の目的になっている。予算規模は9,000億円。
この組織の存在を知り、高本社長は事業計画を持ちこんだ。「いやー、素晴らしい時代の先端を担う技術力をお持ちですな」と異口同音に感心してくれる。ところがそこから一歩も前に進まない。幾度、融資伺い(出資含む)の書類を提出したことか。「早く結論をだしてください」と詰め寄っても明快な返事がない。一夜で三菱グループに融資されることを耳にした。高本社長は怒り抗議をおこなった。「産業革新機構さんは中小企業の技術ベンチャーを支援することが第一級の務めでしょうが。天下の三菱さんに融資しても意味がないと思いますが」。
これで高本氏はブチ切れた。「これで日本はお終いになるな」と腹を括った。
同氏の脳裏には海外戦略しか残らなくなった。まずデンマーク政府からオファーのあった案件のビジネス完遂のため、ヨーロッパに会社を設立する。香港博報堂の社長を経験した松尾氏(テムザック監査役)が責任ポストに就く。デンマークを中心にヨーロッパでの活動が本格化することになる。かねてからシンガポール政府からのアプローチが続いていたが、このプロジェクトも具体的な詰めの段階にきている。皮肉なものである。高本社長が「日本離れ」の精神構造を固定化した段階で、たくさんのビジネスの芽が開花始めだしたのだ。
2011年にブレークするのは間違いない。日本でなく海外でだ。
(※高本社長の「高」は、はしごだか)
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