２月14日はバレンタインデーということで、中洲では、いろんな店でイベントがあっていた。当日、お誘いのメールがひっきりなしかと思いきや、朝からずっと小生の携帯は沈黙のまま。一応、言っておくがプライベートは、チョコの「チ」の字も縁がない。
　そこで、もらえないなら、もらいに行こうと夜の中洲へ突撃。大通りを徘徊していると「あら、萬月さん！」と、声をかけられた。見れば馴染みのホステスさん。「ちょこっと前に、チョコば渡そうと思ってメールしとったのに、"しかと"しとったでしょ？」とのこと。この惨状は、自業自得というわけだ。

　話を聞くと、店長が風邪を引いたため、これから自分が店を開けるという。22時過ぎ、開店には遅い。こんな時間やったら、お客さんが店の前で待ちぼうけをくらっているのでは？　そう思って聞くと、「大丈夫。いつも誰も来んけん」とのこと。別の意味で「大丈夫」ではない。
　実際にその店へ行くと、たしかに誰もいない。ほかの子も出勤して店が開くのを待っていなかったところを見ると、22時過ぎの開店が常態化しているようだ。
　とりあえず、付き合いで１セット。詰めれば40人ほど入れそうな間口が広い店で客は小生ひとり。その時点では素面ということもあって、寂しさは募る一方だ。来ると思っていなかったからと、チョコもない。「今度は必ずメールを返すから」と約束してほかの戦地へ転進したのである。

　次の店では、カウンターに"いつも見かける常連さん"がふたり。カラオケで盛り上がっていた。そこでは、今週末で店を辞めるという子が、手作りのチョコクッキーをくれた。もちろん、小生だけのために作ったものではなく、何枚か焼いて袋に小分けされたものだが、やはり手作りというだけで嬉しくなる。
　調子に乗ってパクパクと食べていると、「長丘さん、チョコ好きよね。いつでん乾き物はチョコでしょ。食べすぎごと気をつけんばよ！」と、ママさんからもチョコのプレゼント。続けて「３月14日は期待しとるよ！」とのこと。14日のチョコには"返済"が必要なことをすっかり忘れていた。

【長丘　萬月】

長丘 萬月（ながおか まんげつ）
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。

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