資金面の、もうひとつの可能性があった。
黒田会長が創業以来、公私に渡りお世話になっていた地元の大手石油販売会社会長が当社に手を差し伸べてくれる可能性があったのである。この石油販売会社会長は、自分が応援する相手には時として十数億円の支援をしたこともあるという。黒田会長は、個人事務所として創業した20歳台よりこのオーナー会長の薫陶を受け、当社の創業20周年の記念パーティでもこの人に来賓としてご挨拶をいただき、最近まで2年に1棟のペースで1棟数億円の賃貸マンションを買っていただいていた。
黒田会長は、その石油販売会社に大分ホテルを買っていただこうと考えていた。
黒田会長は、すでに大分ホテルの融資行の支店長から毎日のように、大分ホテルの商談進捗の問い合わせを受けていた。それで思い立ったのか、黒田会長は9月中旬、石油販売会社会長のアポイントを取り、トップセールスを敢行したのだった。石油販売会社会長は、その会社の職制ゆえ独断はしないものの、買うつもりである旨回答してくれた。黒田会長は、その足で銀行支店長を訪ね、大分ホテルをその石油販売会社に売ることが決まった旨、報告してしまったくらいなので、よほど力強い回答を得たのであろうと思った。この石油販売会社は、十数億円の不動産であれば現金で買いうる財務体質を誇っていた。
ところが社内外から、これに対する反対論が巻き起こったのだ。大分のホテルを買ってもらっても借入を返済すると会社に残る資金はいくらもないので、それよりもこの石油販売会社に十数億円の出資をしてもらったほうがいいではないか、という声である。岩倉社長がこの論の筆頭者であった。
いっぽうで、この石油販売会社と親しい営業課長からも情報が入った。それによると石油販売会社は「会長が買おうといっているのに現場は渋っている」。と、いうのも同社が大分ホテルを買うことが、本当にDKホールディングスを救うことになるのか、という疑念が同社内で提起されているというのである。それにこの会長は、意気に感じれば苦境に陥っている企業に十数億円を投資することも辞さない方ということだった。そして両会長の面談の場でも、石油会社会長はしきりに
「黒田君、私がそのホテルを買うことで本当にあなたは助かるのか?本当はもっと厳しい状況におかれているのではないのか?もっと正直に話してみなさい」
という主旨のことを言われていたとのことであった。
このため、大分ホテルはすぐに契約ということにはならず、「もう一度よく話を聞こう」ということになった様子である。
そこで私は会社の現況をひと目で理解できる資料を作成して、これを黒田会長から石油会社会長へ持参してもらおうと考えた。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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