前身の日中旅行社が1964年に事業をスタートさせて以来、半世紀以上にわたって九州の中国向けの旅行事業を支える草分け的存在なのが、（株）西日本日中旅行社だ。毎年10回以上、中国と福岡を行き来する中国の変化に精通している橋口康祐部長に、2011年の展望をうかがった。

＜2010年の訪日旅行者は前年比200％に＞
　
　2010年、日本を訪れた中国人旅行者は大幅に増えた。西日本日中旅行社が扱う訪日旅行者も約600人と前年比200％となった。ただ、昨秋に起きた尖閣諸島も問題を機に、一気に客足が途絶えた。その影響がなかったら、もっと数字は伸びていたかもしれない。中国に特化した旅行事業は中国関連の報道の影響を受けやすい。同時期に、日本に旅行に来ていた中国の団体ツアーのバスを、街宣車の男が蹴ったという報道が中国でもなされた。現地では「なぜこの時期にわざわざ日本に旅行するのか？」という負のイメージが、一気に沸き起こったという。ごく一部だけを切り取った報道は、情報があまり伝わらない両国にとってマイナスだ。2011年は両国間のネガティブな報道がされないことを期待する。

　西日本旅行社は航空券のみの販売もしている。最近、中国の地方都市行きの航空券の需要が増えてきた気がする。ビジネス客がとりわけ多くなった。個人客でも、中国旅行といえば、数年前までは、添乗員がいて当たり前の時代だったが、ようやく不便を感じなくなってきたようだ。添乗員なしのツアーが当たり前になってきて、もうすでに個人客の約半数は添乗員をつけない旅行ではないか。ただ、そのぶん団体ツアーが減ってきたのだが。現地での旅行者の受け入れがスムーズになってきて、サービスの分野も充実してきたと言える。以前はトラブルが絶えなかった。お客様をもてなすという観点では、中国ではトラブルが起きて当たり前だった。その点では、ずいぶんと中国の主要都市ではサービスの分野が充実してきたと思う。

＜九州新幹線全通の影響は小規模か＞

　中国からの個人旅行客はまだまだ小規模だ。圧倒的に団体客が多い。中国に特化した西日本日中旅行社にとって、九州新幹線の全線開通の影響はさほどないのではないかと分析している。大きな荷物をたくさん抱えて来る団体客にとっては、大型バスでの移動が当たり前だ。また、団体客は中高年の方が多い。電車での利用は小規模にとどまりそうだ。さらに、中国にはリニアモーターカーや時速350キロぐらい出る最新の新幹線もすでに通っているので、日本の新幹線にはそれほどインパクトを感じていないのではないか。新幹線も大きなスーツケースが置けるスペースとか、団体客にも使いやすい環境が整えば、可能性が広がるかもしれない。

　出国する日本人にとって、九州新幹線全線開通の影響は一定程度あるだろう。これまでは鹿児島や熊本の方は、午前中に福岡空港を出発する国際便に乗る際は、前日に宿泊するのが当然だった。九州新幹線が全通すれば前日宿泊の必要はなくなるので、福岡空港を利用する海外旅行客が増えるだろう。

　鹿児島と上海を結ぶ航空便は現在週2便だが、4月から1便増便されることになっている。地方空港の国際線にとって、旅行客の奪い合いが激しくなるかもしれない。ただ、九州の地方都市は一様に期待が大きい。九州ならではの良いところはたくさんある。東京や大阪に比べて九州は物価が安いこと、個性的なおいしいものがたくさんあること、小ぢんまりしていて動きやすいこと、中国にはない情緒的な温泉がたくさんあること、中国人の旅行客を取り込むには、こうした良い点をアピールすることが大切だ。

　最近とくに、中国人の個人旅行客から「温泉はぜひ体験したい」という声を聞く。九州の特色を生かせば、東京、大阪、京都などのゴールデンルートと勝負できるだろう。福岡に拠点を置く当社も、2011年は中国人観光客に九州の良いところをどんどんPRしていきたいと考えている。

【杉本　尚大】

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