3月3日に開業するJR博多シティは、稼げるところで稼ぐという多角化路線をとるJR九州にとってまさに屋台骨だ。しかし、テナント争奪戦では天神に勝てず、目新しいのは東急ハンズと駅ナカくらい。そこでカギを握るのが店舗スタッフの育成強化とモチベーションのアップになる。デベロッパーとしても人材の底上げに取り組むことは、天神との競争を優位に運べるはずだ。
<物販では天神との競争力に限界>
JR博多シティは、核店舗の誘致で二転三転したものの、百貨店の博多阪急と東急ハンズとアミュプラザによる専門店街、そして飲食店街ほかで落ち着いた。
テナントリーシングは2007年の秋頃から活発化し、地場の三銀行が阪急百貨店グループと商談会を開催するなど、順調に進んでいるかのように見えた。
ところが、昨年12月、運営会社の「博多ターミナルビル」が開催した合同面談会で明らかになったテナントは、ほとんどが既存店だった。これには「新しいブランドやテナントが来るのでは」と、期待していた消費者からため息が漏れた。
JR九州の石原進前社長は新博多駅ビルの構想で、「オフィスが並ぶ博多駅前の通りをパラソルが並ぶ歩道を整備して、パリのシャンゼリゼのような雰囲気にしたい」と周辺整備にもふれていた。キャナルシティ博多などとの回遊性を高め、休日でも賑わう街づくりの拠点にしようということだ。
反面、それは天神とのテナント争奪戦で不利な立場は変わらず、強力な集客装置が誘致できない辛さの裏返しだったと、言えなくもない。
合同面談会を控えた11月、JR九州の唐池恒二社長は、博多シティの売上目標を700億円弱と発表。主要客層を30歳前後の女性に想定し、カード戦略やアジア客を取り込み、福岡市の商業施設では博多大丸(約630億円)を超える水準を目指すとした。
最大の強みは1日35万人が利用する駅という拠点で、九州新幹線鹿児島ルート開業による広域集客にも期待できる。これらを軸に、博多シティは天神にあるブランドやテナント、東急ハンズなどの新顔を揃えることで、博多駅に金を落とさせるのが営業の基本戦略になるようだ。
<人の賑わい=販促効果には結びつかない>
唐池社長は競合の懸念が指摘されるなか、「客層が重なるなかで、協調していく」と言葉を濁す。でも、核テナントの博多阪急は地域三番店で、マーチャンダイジングは地方百貨店の域を出ない。他のテナントは天神他とほとんど同じ顔ぶれ。競争力をもつのは残る東急ハンズと駅ナカ業態くらいしかない。
JR九州はアミュプラザを開発する時、運営コンサルティングをファッションデベロッパーの「パルコ」に委ねた。JR鹿児島中央駅のアミュプラザ鹿児島ではそのノウハウを利用し、お笑いタレントのライブや自動車展示会などのイベントを年間を通じて開催している。
そのパルコも福岡進出では「イベント事業」を積極化する方向性を強調したものの、物販面に与えた影響はそれほど大きくなく、天神の一等地に店舗を構えながら、半期売上げは70億円程度に止まっている。
博多シティは博多駅という拠点で街中からも集客する心づもりのようだが、必ずしも人の賑わいが物販に直結するものではない。 つまり、駅利用客や旅行客=買物客という単純な構図は成り立たないのだ。
しかも、今は時空を超えて買物できるインターネットの時代である。ネットショッピングに慣れた20代、30代がわざわざ新幹線代まで使って、博多に買いものに来るとは思いにくい。 その証拠に博多阪急、アミュプラザ、東急ハンズのどの商品をとっても、今はほとんどがネットで購入できる。でなければ、ネット通販企業の「ゾゾタウン」が今期1,000億円の目標を掲げるはずがない。
鉄道事業が人の流れを変え、不動産や小売りに影響を与えてきたのはすでに過去のこと。駅ビルは今や人を動かさずにモノを動かすビジネスモデルとも、競争せざるを得ないのだ。博多シティはこのことを十分肝に命じて営業戦略を立てていくべきである。
【釼 英雄】
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