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特別取材

幻冬舎のMBOを振り回した謎の「イザベル」(上)
特別取材
2011年2月17日 10:27

(株)幻冬社 大山鳴動してネズミ一匹も出なかった。2カ月間にわたった幻冬舎の株式買い占め騒動は結局、天王山となった2月15日の臨時株主総会で、株を買い占めた側が経営陣に敵対的な行動をとらず、経営側の圧勝に終わった。しかも、ついに謎のファンドは正体を見せずじまいだった。買い占めの意図が分からぬままの幕切れになりそうだ。

 数々のベストセラーを放つ敏腕編集者として有名な見城徹社長は昨年10月28日、(株)幻冬社 見城徹社長自らが興した幻冬舎(ジャスダック上場)の株式を非公開化しようとマネジメント・バイアウト(MBO)を発表した。見城氏のイニシャルをとって命名した特別目的会社TKホールディングスを設立し、TK社は10月28日から幻冬舎株の株式公開買い付け(TOB)を実施した。買い付け目標は幻冬舎株の3分の2超で、非公開化した後にはTKホールディングスと幻冬舎は合併する計画でいた。その暁には新たな幻冬舎の株主は100%見城氏となり、株式の買い付けの代金約63億円は幻冬舎の債務となる予定だった。

 このTOB期間中に幻冬舎株の3割もの株式を奪い取ったのが、ケイマン籍のイザベル・リミテッドというファンドだった。まるで、フジテレビがニッポン放送へのTOB期間中にニッポン放送株を簒奪したライブドアや、たった1週間で阪神電鉄の株式の26%を強奪した村上ファンドを彷彿させる鮮やかな手口だった。

 イザベルは外国籍ということもあって、米スティール・パートナーズや米リバティ・スクウェア、英チルドレン・インベストメントのような外資の「モノ言う株主」と見えたが、実態は日本のファンドのようだ。インターネットや大量保有報告書を検索しても、これまで内外の投資実績は見あたらなく、法人として設立されたのは、幻冬舎がTOBを発表した後の11月12日だった。つまり、最初から幻冬舎株を買い占めることを目当てにつくられたファンドらしかった。

 大量保有報告書にイザベルのディレクターと記されているヴィジャヤバラン・ムルゲス氏は、グランドケイマンにあるオフショア専門の法律事務所OGIERのマネージング・ディレクターだ。ケイマンでファンドやSPCをつくる際に、地元法律事務所の弁護士を登記上の責任者として名前を借りることは一般的な手法だ。ムルゲス氏もそんな名義貸しとみられる。

 イザベルは、東京桜橋法律事務所の豊田賢治弁護士を東京の連絡先とし、彼が代理人となって見城氏や幻冬舎との交渉の場に姿を見ている。が、イザベルの主宰者はついに一度も見城氏の前に姿を見せることはなかった。豊田弁護士は、見城氏が示したTOB価格(当初22万円、後に24万8,300円に変更)を「安すぎる」として、1株あたり純資産に近い37~38万円で買い取るよう要求したが、その買い取り方は「市場に買い注文を出してくれれば、その分売る」という非常識的なもので、幻冬舎からすると、どこまで本気なのか疑わしかった。

(つづく)

【特別取材班】


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