（株）天国社　福岡会館　代表取締役　野口　宣夫

＜柔軟で細やかな演出、伝統も継承＞

　ある葬儀で見送られた男性は、海が大好きだったという。祭壇はヨットや波をイメージさせる飾り付け、会場内には生前のビデオが上映された。受付では、遺品や写真などが"エンディング・ショーケース"に並ぶ。そして霊柩車の出発時には、お気に入りの歌がBGMに―。
　かつて、どこでも大体同じスタイルだった葬儀も、価値観の多様化に伴って変化している。実際に前出のような葬儀を行なった「天国社」は、福岡市で業界トップクラスの施行数を誇る。そして野口宣夫代表取締役は、こう話す。「生前は一部分しか知らなかった人も故人の人生を一緒に振り返り、"彼らしいね"と改めて心からお見送りができます。故人の思い出を、弔問した皆さんで共有できるオリジナルな"参加型の葬儀"が、今の時代のニーズであり、私たちの目指す形のひとつです」。
　とはいえ通常、葬儀は突然訪れ、そこで初めて故人"らしい"内容を考えるのは容易ではない。最近は「自分らしい葬儀をしたい」と生前から準備にかかる人も増えているという。そこで同社では、VIP会員（入会金１口５万円で葬儀費用15万円割引、年会費等は無料）向けに「エンディングノート」の作成をアドバイスしている。また姪浜会館前に併設した「ご葬儀相談センター」には、誰でも気軽に立ち寄り、自分や家族の葬儀方法などについて、いろいろな希望や悩みを相談することができる。
　一方で同社は、"伝統文化の継承"を担う立場としての意識も高い。「昔は、右往左往する家族もご近所から助言を受けながら、正しい葬儀の手続きを継承できました。しかし近年は、こうした地域のつながりが希薄になっています。宗派や地域の慣習に沿って守るべき文化を守り続けるために、私たちがすべきことも少なくありません。これも時代のニーズのひとつと言えますね」（野口氏）。

＜地域に溶け込み、グローバルな視点で対応＞

　福岡の都市化と地域コミュニティのあり方の変化は、同社事業の中身もさまざまに進化させている。
　例えば、少子高齢社会・核家族化。夫（妻）に先立たれて独り暮らしになったが、頼りの子ども夫婦は遠方に住み、日常生活が心もとない。「そんなご遺族の心のケアができないか」と同社では、社員らが定期的に見回り訪問を行なっている。「専門的なことは無理ですが、ご近所さんのような存在として頼ってもらえたら嬉しい。小さな社会貢献のつもりで続けています」と野口氏は語った。
　一方、地域のなかにある会館として、住民に施設を開放しイベントなどに利用してもらうほか、行事に協賛したり清掃活動に社員が参加したりといった交流・協力にも積極的だ。「公共的な事業を担う会社として、地域と共に歩む姿勢を大事にしたいのです」（野口氏）。公共性が高いからこそ、同社は福岡の国際化にも視野を広げる。「福岡の方が海外で亡くなった場合、また海外の方が福岡で葬儀をあげる場合、色々な手続きや文化の違いを知った上で、いつでも受け入れられる準備を整えています」（野口氏）。
　福岡で進むグローバル化、高齢社会、そして価値観の多様化。「柔軟かつきめ細やかに変化しながら、葬祭という大事な文化を、地域のなかで受け継いでいくことが、使命だと思っています」と、野口氏は語った。

＜プロフィール＞
野口　宣夫　（のぐち　のりお）
1947年、熊本県生まれ。92年、「NTT」を退職し、「天国社グループ」へ入社。「福岡城西ロータリークラブ」理事。グループ会社「株式会社お花の太陽」代表取締役、福岡商工会議所議員も務める。趣味はゴルフと旅行。

＜会社概要＞
（株）天国社
代表者：野口　宣夫
所在地：福岡市早良区原3-14-5
設　立：1987年
資本金：2,000万円
ＴＥＬ：092-822-4949
ＵＲＬ：http://www.tengokusya.co.jp/

※本稿は以下の書籍に掲載されています。

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