「河村さんのは本当にお金がかからない選挙」と、河村たかし事務所のスタッフは言う。事務所にしばらくいると、その意味がわかる。「何か手伝うことはありませんか?」という問い合せの電話が相次ぐ。なかには、直接事務所へ手伝いに訪れる市民もいた。
名古屋市長選取材の2日目、河村氏の選挙カーに同乗し、選挙活動の一部始終を見せてもらった。選挙カーにはウグイス嬢の姿はない。走り始めると「河村たかしでーす!」と、河村氏本人が吹き込んだテープ(スタッフ曰く「いつも一発録り」とのこと)が再生される。『元祖』とする自転車遊説も健在だ。その姿をひと目見ようと、玄関口や店先に市民が現れた。そして、そのような「政治家はボランティア」という理念を地で行くような選挙活動を支持する声も多かった。
街宣活動では、選挙カーを目にするだけで行き交う人々に笑顔がこぼれ、性別、年代を問わず、多くの人が手を振ってきた。あまり人の気配がしないスーパーの前でも街頭演説が始まれば、買い物客や付近の住民が集まってくる。演説終了後、決まって始まるのは写真の撮影会。河村氏のもとには、主婦や親子連れなどが駆け寄る。女子高生にも大人気だった。聴衆の市民からは、市民税10%減税、地域委員会、議会改革といった河村氏の公約3本柱についての説明が、まるでオウム返しのように話されることも少なくなかった。
そのような選挙戦の様相からすれば、選挙の勝ち負けは火を見るより明らかであっただろう。選挙への関心が下がり、投票率の低下も懸念された。しかし、今回の結果を見れば、勝ち負けよりも「民意を再確認する」ことに重点をおく河村氏の意思が有権者に伝わっていた。今回、投票率は前回から4.13ポイント増の54.17%。さらに河村氏は、名古屋市長選の最高獲得票数であった自分の記録(前回)を15万票も増やし、それぞれ記録を更新した。
【山下 康太】
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