<自主編集か、テナントビル化の流れ>
2010年9月、「銀座三越」が増床した。08年4月に伊勢丹と三越の統合で誕生した三越伊勢丹ホールディングスは、不採算が続く地方店を閉鎖するなどリストラを断行。首都圏で反転攻勢をかけるべく、総事業費420億円をかけて三越銀座店を増床した。
売場面積は以前と比べて1.5倍。とくに、伊勢丹からバイヤーが送り込まれ、自主編集の売場づくりなど従来の三越とは異なるマーチャンダイジングを構築。この陣頭指揮を執ったのが、伊勢丹メンズ館を成功させた大西洋現社長で、その手腕が発揮された売場と言える。
伊勢丹は百貨店の構造改革として、取引先依存体質からの脱却に乗り出している。いわゆるサプライチェーンの構築で、産地、メーカー、企画デザイン、商社などと協業し、そこにデザイナーや職人、工場をつけて物づくりを行ない、販売までの流れをつくるものだ。
もともとこの手法はトヨタ自動車が生み出したもので、伊勢丹はこうしたメーカー流のマネジメントを百貨店にも応用しようとしているのである。
一方、ジェイフロントリテイリング傘下の松坂屋は、対照的な戦略を取る。高級百貨店が幅を利かしてきた銀座でも、エルメスからユニクロまでの「専門店」がお客を集めるようになってきた。そのため、松坂屋銀座店は専門店の集客力を借りる勝負に出たのである。
誘致したファストファッションの「フォーエバー21」や家電の「ラオックス」はともに好調で、松坂屋は若年層の集客力を高め、売上げを回復した。ジェイフロントリテイリングとしても銀座六丁目2街区を一体開発する大プロジェクトを進行中で、複合商業ビルの運営など収益性の高い事業戦略にシフトしていく考えという。
数寄屋橋阪急も、米カジュアルファッションのGAPなどテナントを強化。売場を専門店に委ねるショッピングセンター化が、百貨店の戦略の一つになりつつある。
<ファッションビル並の条件でテナント誘致>
ショッピングセンター化で、他社に先んじたのが大丸だ。2009年11月、そごう心斎橋店を買い取るかたちで心斎橋店北館を開業。ここの歩率家賃相当分を駅ビル並みにし、従来百貨店が取り込めなかったセレクトショップや新興ブランドの誘致を実現したのである。
従来の百貨店は、中高年の富裕層を主要顧客としてマーチャンダイジングを組み立ててきたが、こうした戦略がヤング層の流出を招いてしまった。もはや客層を絞る手法は限界にきており、幅広い客層を取り込まないと、成長は見込めないと判断したようだ。
北館では地下1、2階を20代の女性向け売場「うふふガールズ」とし、ファッションビルに出店するブランドを集積。2~4階にも30代向けのセレクトショップを取り入れた。
通常、アパレルメーカーが大手百貨店に店舗を構える場合は、消化仕入れ契約で納入掛け率は60~65%。百貨店の取り分である値入率は40~35%である。
ユニクロのように原価率が20%前後のSPA(製造小売業)なら利益を出せるが、利益率が低いセレクトショップなどにとって出店障壁は高い。
そこで、大丸は業務の効率化などを進め、テナント契約に近く、家賃にすればファッションビル並みの15~20%でもやっていける条件を整えたのである。残る百貨店スタッフは最低限の人員で、テナントの指導とフロア全体の編集に専念するというわけだ。
博多阪急にユナイテッド・アローズなどのセレクトショップが取り込まれたのも、こうした流れと見ることができる。
百貨店の高コスト体質が叫ばれて久しいが、いくら客数、売上が減少しても、納入先の原価を下げ、販売価格を上げることで、利幅を確保することができた。しかし、同じクオリティの商品が百貨店では2万円もするのに、ユニクロでは1万円を切る。こうした価格格差に、今の消費者が割高感を感じないわけがない。
高コスト構造の解決は待ったなしで、博多阪急にとっても生き残りの至上命令となる。
【釼 英雄】
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