ガリオン・グループ以外にも最近はいくつかのファンドが関係したインサイダー事件があるのだが、これらの事件で注目されたのが「エキスパート(専門家)・ネットワーク」というファンド関係者とインサイダー情報を持った業界の専門家をつなぎ合わせる情報の仲介業者が介在していたことである。
インサイダー事件でこういった情報の仲介業者が登場している背景にはヘッジファンド業者が近年増加し続け、ファンド関係者の間で顧客を引きつけるために新鮮な投資情報を入手する競争が生まれたことが挙げられる。投資銀行のアナリスト部門と販売部門の利益相反問題がブッシュ政権時代に批判されたこともあり、ヘッジファンドは投資判断を行なう多様な情報源を求めるようになり、こういう専門家を紹介するエキスパート・ネットワークが登場してきたわけだ。
ヘッジファンドがその筋の専門家にあって業界動向をリサーチすることはむろん違法ではない。しかし、そのネットワークからインサイダー情報が流れてそれに基づいて投資をすれば話は別だ。FT(Financial Times)の記事(3月2日付)ではこの種のネットワークを利用したインサイダー情報の入手を隠蔽するために、投資ファンド側も様々、露見しないように偽装工作を行なっていることを紹介している。
たとえば、関係ない売り買いを頻繁に繰り返すといった古典的手法から、重要な情報はハードディスクではなくUSBメモリに記録して管理することや、情報伝達にプリペイド携帯電話を利用すること、さらには、肝心の投資情報を自ら調査し発見したことにするために意味もなく大量の投資家向けのレポートを印刷して放置したりする「手口」があるのだという。
だから、FTの記事によると、近年、米国や英国の金融当局は重大発表前後の不自然な株価の変動ではなく、銀行家とトレーダーのあいだの人脈に注目するようになっているという。ガリオン事件で見られたように、FBIを使っての電話盗聴などの手法まで使われるようになっている。
(リンク:http://www.ft.com/cms/s/0/447649de-450a-11e0-80e7-00144feab49a.html#axzz1FtHysyc1)
80年前の大恐慌の時もバブル時に起きた金融業界のエリートの行状が取締を強化した金融当局の手で暴かれた。
グプタ氏もラジャラトナム氏も貧しい家庭の出でそれぞれインドとスリランカからグローバルなエリート階級の仲間入りを果たした叩き上げの人物である。どこの世界でもはいあがってきた苦労人は絶頂のさなかで没落を始めるというものなのだろうか。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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