医療法人 敬天会 東和病院 副院長 医学博士 水野 修一
＜生薬が国家の戦略物質に＞
今、新たに薬用植物と言われているものに世界が着目しています。アメリカは、プラントハンターを世界中に派遣し、世界の薬用植物とされるもの3,000種類くらいを採取、片っ端から分析してパテント（特許）をかけています。生薬が重要な戦略物質になると判断しているのです。中国もそれを真似てチベットやネパール、アフガニスタンまで出かけて薬用植物を採取しています。
抗生物質にしろ、ガン治療や糖尿病患者の脂質代謝にしろ、理論的に考えた化合物ではどうにもならず、治療が不可能な時代になってきました。薬用植物は歴史的にみると、今も医療のなかできちんと医薬品として長期的に残っているのは、ほとんどが植物の出身です。代表的なものでは、アスピリンがあります。
アスピリンは、近代科学の産物である化合物の塊みたいに思っている人が多いと思いますが、あれはアセチルサルチール酸といって、柳の葉の煎薬でした。心臓病に用いるジキタリス剤は、ジキタリス葉から出ています。また、喘息の薬でエフェドリンは、麻黄という生薬からできています。重要で、しかも寿命が長く残っている薬は、利尿剤以外はほとんどが生薬の薬です。
今後重要なのはガンの薬です。人間が頭で考えても有効な抗ガン剤ができるわけがなく、ガン免疫に効くような薬はおそらく生薬から出るだろうというので、皆が一生懸命探しているところです。
脂質代謝の薬も同様です。糖尿病性腎症で透析に至るまで、それを止める確実な薬はありません。ある程度
は生薬が役に立つのではないかと可能性を探っているのは事実で、透析に入るまでの時間を伸ばしたり、そこに至らずに済んだりということが起きています。しかし、そういう生薬が見つかっていても、困ったことに日本は新しい生薬を見つけ出すことに積極的ではありません。
＜福岡における生薬栽培の可能性＞
国内での栽培ができるものについては、一部の学者が基金を集めて懸命に努力しています。ただ、ある程度日本でできるもので代替を探しておかなければ、５年先、10年先は何が起こるかわかりません。
日本は、アメリカや中国のように獲りっぱなしではなく、パテントがかかった原料に関しては植樹するなどして保護し、かつ利益金の一部を支払っています。また、国内で栽培ができるものは自国で育てています。宮崎や大分で栽培が盛んなヒュウガトウキがその代表格です。
一方、中国では、農薬や殺虫剤を撒いて育てたうえに水洗いもろくにしないものですから、有害成分が残留してしまいます。学会などで発表されているものでも、生産地について無頓着な医者や学者も多いようです。上海や香港でそのことを話すと、「漢民族が迷惑するわけではないから構わない」などと平気で言うのですから驚きです。
福岡市内には、九州大学薬学部、福岡大学薬学部、第一薬科大学と三つの薬科系大学があります。各大学には、生薬関連の専門家もいます。福岡県下には、英彦山周辺、若杉山周辺、福智山周辺など、生薬栽培の可能な山林も多くあります。各薬科大学の協力を得て、生薬の栽培を試み、広く世に提供してはいかがでしょうか。
＜プロフィール＞
水野 修一 （みずの しゅういち）
1968年九州大学医学部大学院卒業。国立小倉病院内科・消化器医長、厚生省漢方療法研究班班長を経て、98年国立小倉病院退官後、敬天会東和病院副院長に就任。和漢医薬学会評議員、日本東洋医学会名誉会員、日本内科学会認定専門医日本消化器病学会認定専門医、日本東洋医学会認定専門医。
＜法人概要＞
医療法人 敬天会 東和病院
代表者：東 泰宏
所在地：福岡県北九州市小倉南区守恒本町1-3-1
ＴＥＬ：093-962-1008(代表)
ＵＲＬ：http://www3.ocn.ne.jp/~tohwa/
※本稿は以下の書籍に掲載されています。
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