東北地方太平洋沖地震の影響への懸念から一様に急落する株式市場。日本を代表する企業であるトヨタ自動車の株価も例外ではなく、3月15日の終値は3,065円。一時は2,830円にまで下ブレする様子も見られ、ちょうど1カ月前につけた直近1年での最高値3,910円(2月15日の終値)も遠のいてしまった。しかし、同社の株価下落は震災による株式市場全体の低迷だけに起因するものではないという。
震災当日の3月11日夕刻、トヨタグループの車体メーカー・セントラル自動車の宮城工場(宮城県大衡村)が操業を一時停止することが明らかにされた。震災により直接的な人的・物的損害を出したわけではなかったが、安全面に配慮した措置であったとされる。
ただ、同工場は2月16日に開所式を終えたばかりの最新工場であり、海外輸出用の「ヤリスセダン」(日本名:ヴィッツ)を、あえて高コストの日本国内で生産するという野心的試みを体現するものである。従来の現地生産・現地販売の方針を転換するという意味では「トヨタの社運がかかった新工場」とも評され、だからこそ株式市場もこれを好感し、(ご祝儀込みで)付いた株価が先の3,910円であった。そこから1カ月での今回の操業停止措置である。止むを得ない措置とはいえ、そのインパクトは大きいと言わざるを得ない。
かつて日本国内で生産された自動車は、低コスト高品質で世界を席巻した。しかし時代は変わり、高コストの国産品は大きな付加価値を生まなければ競争力を失う事態となっている。利鞘の薄い海外向け大衆車の代表格である「ヤリス」を国内で作るという野心的な試みが、今後どのように評価されるのか。今しばらく市場の動向が注目される。
【田口】
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