「66歳」「新人」「無所属」。ある友人は「おい、本気か?」といわれた。立候補はあり得ない、というのである。私もそう思う。選挙は体力、気力が勝負だ。とくに、体力に自信がない限り、止めたほうがいい。
でも、「高齢者問題に特化する」と考えたとき、66歳は「適齢期」なのだ。高齢者を厚労省は「65歳以上」と決めている。それ以前は高齢者ではない。私のように、「高齢者問題だけ」で戦おうという立候補者は皆無である。前述したように、「孤独死」「老々介護」「認知症」「先行き不安」「孤立」などという負のキーワードが際限なく出てくるテーマを扱う立候補者に票は集まらない、と忠告してくれた市議関係者がいた。当然だと思う。以前なら。
高齢者に関するさまざまなサービスは、行政主導で仕切られてきた歴史がある。「サービスを提供してあげる」という意識が強い。高齢者はそれを「個人的」に受け、「よかった」「悪かった」と「個人的」に総括する。「与えられる」という生活感情に慣らされてきた歴史がある。行政マンは頭がいいから、巧みに言葉を選ぶ。最近では、「セーフティネット」という何だか意味不明の横文字言葉を駆使して、高齢者の脳みそを心地よくさせる。ここいらがくせ者なのである。
2000年に「介護保険」がスタートした。実質的な仕掛け人は、堀田力さんだと聞いている。堀田さんといえば、ロッキード事件で、時の宰相田中さんを捕まえた辣腕検事として一世を風靡した人物である。その堀田さんが、180度方向転換して、福祉の世界に登場した。「さわやか福祉財団」を設立し、理事長として再登場した。
ところが、介護保険を利用できた幸運な(?)高齢者は18パーセントにすぎない。残りの80パーセント以上の高齢者は、幸運にして元気なのである。なかには「介護保険なんぞ使えるか。俺は何でも自分でする」という剛の者、頑固な爺さん・婆さんもいる。
実際、介護保険は、「在宅」が基本理念なのである。「在宅」だと「他人が家に入る」という現実を避けては通れない。家の中に入り、部屋の掃除をしたり、ゴミを片づけたり、洗濯したりもする。これを非常に嫌がる高齢者が多いのである。
で、残りの80パーセントの、「介護保険の恩恵に浴せない」元気な高齢者は、自由に自分の生活を送っているか、というとそうでもないのである。とくに男性の高齢者がそうだ。現役だった頃の肩書きが外せない。いや、外そうという気持ちになれない。外してしまうと、「裸の王様」みたいに惨めになってしまうと考える高齢者が意外に多い。
「現役を退いたら、みな同列」という発想に馴染めない。同意できない。その結果、趣味のサークルに入っても、「自分は他の人と同列ではない」という意識が強いから、同一歩調がとれない。やがて仲間外れにされ(実際は、自分から身を引く場合が多い)、家に閉じこもり気味になる生活を送る。伴侶からは「外に行けば?」と疎まれ、相手にされなくなる。結果として、自分の居場所がなくなり、孤立していく。「過去のプライドのなかだけで生きていく」、こういうケースが本当に多いのである。
で、堀田さんは反省した。「元気な高齢者のことを想定して介護保険のことを考えてこなかった」。反省した堀田さんは、すぐに高齢者を地域で孤立させないために、高齢者が気軽に立ち寄れる「居場所」作りを提案した。「居場所」というのは、決められた箱(家、公民館、施設)だけを指すのではない。集まれる空間があれば、どこでもいい。そこに来れば、「自分らしくいられる。自分が必要とされていることを実感できる」。それが居場所なのである。
3年前の春、拙著『団地が死んでいく』(平凡社新書)を上梓し、私の住む県営団地内に「幸福亭」という居場所を立ち上げたときのコンセプトは「孤独死の回避」だった。ところが、堀田さんたちの活動を知り、「居場所」作りにシフトしていったのである。
「幸福亭」は運動体である。単に来亭していただいた高齢者に、楽しいイベントや生活情報を提供するだけの団体ではない。高齢者に必要な様々な問題を解決するために、県や市に提言しつづけてきた。だけど、実際にはほとんど聞き入れられていないのが現状だ。故に、今回立ち上がったという話を前回にした。ヤクザ映画にたとえるのはいささか品がないが、気持ちは高倉健であり、鶴田浩二なのである。そこに藤(冨士)純子が加わればいうことない。
<大山 眞人>
昭和19年山形市生まれ。早稲田大学第一文学部史学科国史専修卒。学習研究社で女性雑誌、音楽雑誌編集。退社後、ノンフィクション作家。
著書に「S病院老人病棟の仲間たち」(文藝春秋・テレビドラマ化)、「ちんどん菊乃家の人びと」(河出書房新社)、「老いてこそ二人で生きたい」(大和書房)、「悪徳商法」(文春新書)、「団地が死んでいく」(平凡社新書)、「楽の匠」(音楽之友社)など多数。
「報道2001 老人漂流」(フジテレビ 08年7月 コメンテーター)などテレビ・ラジオに出演。高齢者問題を中心に発言。
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