介護保険を扱う最前線は、地域ごとに設けられた「地域包括支援センター」である。耳慣れない名称だ。2006年に立ち上げられた新しい部署である。だいたい、関係機関を増やすと天下りなどろくなことがないと思われがちだが、これだけは違う、最近のヒットだと私は思っている。ひと言でいえば、「よろず相談窓口」といっていい。高齢者や家族の問題など、何でも相談でき、解決に向けて一緒に考え行動してくれる。
たしかに、これまででも、民生委員という身近な相談相手がいる。でも、最近の民生委員の評判は正直芳しくない。「1年に1回も訪ねて来ない」「親身になって聞いてくれない」という話をよく耳にする。なかには、「相談したら、よその人が知っていた」という問題発言もあった。
もっとも、こういう人ばかりではなく、本当に一生懸命仕事をする民生委員もいる。結論を言えば、民生委員ひとりでは解決できない問題が増えた。それを抱え込んだ民生委員の持って行き場、解決法が見あたらないのだろうと思う。言い換えれば、時間をつかう割には、民生委員としてのモチベーション、満足度、やり遂げた開放感、達成感などが減少したからだ。それだけ高齢者をはじめ、若年者(児童)の抱えている問題が多岐にわたり、複雑化している証拠なのかも知れない。最近ではやる人が減り、民生委員のいない地区もある。限界に来ていると思う。
地域包括支援センターは、民生委員が残した(残すしかなかった)部分を担っているように思える。ただ、残念ながら認知度が低い。これは地域住民に向けて発する情報量が圧倒的に少ないからだ。つまり、それぞれの包括支援センター独自で発信する広報誌が貧弱なのである。
経済的な理由で保健師不在の地域包括支援センターも多い。これでは十分な仕事ができない。これは、行政(大家)サイドの問題で、民間のデイケア(店子)などの施設を中心に「依託」という方法を採用しているから、委託を受けた店子は、大家に対して意見を言いにくい。ここでも大家サイドで進めていく。問題の一端はここにもある。
でも、これからは地域包括支援センターを中心とした時代になる。ここを充実させない限り、介護をはじめとする様々なサービスに支障を来すことになる。とにかく地域包括支援センターの「居場所」(存在)を知らしめることを、早急に手をつけるべきだ。
そこで提案である。地域高齢者の見まもりや居場所作りを押し進めているボランティアをこの中に取り込みたい。広報関係の専従というボランティアもいい。ITを駆使して広報し、ネットワークを広げるという方法もある。
地域包括支援センター(長ったらしい名前で何とか縮められないの?)をサロンにして、誰もが自由に出入りできる「居場所」にするという発想はどうだろう。そこにくれば、多くの重要な生活情報がピンポイントに入手可能だ。センターの存在理由も口コミで広がり、理解度が大幅にアップする。
元気な高齢ボランティアは、それぞれの現場で培ってきた素晴らしい知恵と経験と判断力を持ち合わせている。彼らの卓越したアイディアを駆使すれば、悲惨な孤独死も減少するだろう。
ボランティアを専門家のサブ(補助的要員)と考えるべきではない。仕事を的確に評価すべきだ。これをいうと、「行政のやるべき仕事をボランティアに肩代わりさせている」という批判する人もいる。でも、財政の逼迫している現状では、ボランティアは強力な戦力である。これを認めるなら、それなりの「評価」と処遇を考えるべきだ。まず、彼らに個人情報を提供すべきだろう。
今回のマニフェストの中心に、「地域包括支援センターの充実」を挙げた。保健師を入れた職員を増やし、いつでも対応できる「よろず相談所」の機能を高めるべきである。何度でもいうが、地域包括支援センターを充実させ、24時間巡回型の訪問介護、介護保険料の定額制などを実現させない限り、高齢者の明日はない。
ところがこのような悠長なことをいっていられない状態が起きた。
3月11日、午後2時46分。マグニチュード9.0の地震が東北と関東を直撃した。我が家の本棚が壊れ、本や資料が居間に散乱した。柱時計が落下し、時を刻むことを止めた。
突然、選挙が変わった。
駅頭には候補者の姿はなく、街全体が静かになった。店から食べ物がなくなり、ガソリンがなくなった。候補者を見る目がどこか変だ。とげとげしい雰囲気が漂う。誰もが自分の生活や命を守るために走り始めた。選挙どころではなくなったのである。次の最善手は何か?誰にも分からない。
<大山 眞人>
昭和19年山形市生まれ。早稲田大学第一文学部史学科国史専修卒。学習研究社で女性雑誌、音楽雑誌編集。退社後、ノンフィクション作家。
著書に「S病院老人病棟の仲間たち」(文藝春秋・テレビドラマ化)、「ちんどん菊乃家の人びと」(河出書房新社)、「老いてこそ二人で生きたい」(大和書房)、「悪徳商法」(文春新書)、「団地が死んでいく」(平凡社新書)、「楽の匠」(音楽之友社)など多数。
「報道2001 老人漂流」(フジテレビ 08年7月 コメンテーター)などテレビ・ラジオに出演。高齢者問題を中心に発言。
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