<オーシャンテックワールドの経営内容は?>
電子商事の中野社長は、もともとは銀行出身者をO社((株)オーシャンテックワールド)の代表に据える予定だったが、引き抜きに失敗した。次に、1年限定という条件で邦次朗氏が代表に就いたのである。工場はK社((株)鐘川製作所)の一部を40数万円の賃料で借り、稼働を開始。S社((株)サンコー・テクノ)の得意先を引き継ぐかたちで、1期目の10年5月期決算は約2億5,000万円の売上高を計上し、黒字も確保した(資料4の決算書参照)。まずまずのスタートだった。
「K社の立ち位置は」と言うと、K社の玄関にも掲げられているが、「オーシャンテックワールド指定工場」。上述した通り、O社の1期目においては約1億2,000万円の仕事を請けていた。迎えた2期目において、邦次朗氏は代表を降りなかった。O社の業績は、11年5月期も前期並みの売上高には届く予定であった。しかし、残り3カ月となった2月末に、O社の運命が思わぬ方向へと動き始めたのは、冒頭から述べてきた通りである。
2月25日付で、代表の邦次朗氏より株主宛に『臨時株主総会招集のご通知』という書面が送達された。内容は、「創業以来、皆様のご支援を仰ぎながら事業の立て直しを図ってまいりましたが、1月までの試算表では、当期の経常損失は5,300万円となり、大幅な債務超過となっております。現時点では債務超過の解消は困難であり、資金繰りも非常に厳しいことから、このまま事業を継続することは困難であると判断せざるを得ない状況です」(詳細は資料3臨時株主総会招集のご通知参照)。以上の理由で、3月9日に株主を招集して解散決議を行ない、同15日付での解散手続きをしたいというものだった。
鐘川邦次朗社長の『臨時株主総会招集のご通知』を額面通りに読めば、O社の先行きは真っ暗闇に思われる。だが、ここで疑念が残る。資料4の1期目の決算書であるが、まずまずの利益をあげている。関係者に問いただしてみた。「この決算書は粉飾か?」と。「いや粉飾する必要がない本物だ」という証言を得た。そうなると、2期目に入った10年6月から11年1月までに、果たして経常損失が生まれるかという疑問がわいてくる。
冒頭、山本専務の発言を紹介した。「資金繰りは苦しくとも、債務超過にはなっていない。売掛金、在庫など厳密に査定すれば、絶対プラスだ」と証言している。また、O社に精通しているある人物は、「あの会社は冬場の資金繰りが苦しいのが特徴だ。3月からは売上が増え、資金回収が始まる。一番厳しい1月に締めて云々するのは、おかしいのではなかろうか。また、あの水産業界相手では年2回払いが恒例になっているので、回収促進を強化する必要がある。鐘川社長はそういう業界慣習に疎かったのではないか!!」と指摘する。
別の人物は、K社からのO社への取引単価を眺めつつ「仕入れを競合させれば、O社は一挙に収益性がアップする」と断じる。まーそれは実行不可能だ。O社の鐘川社長が、K社の会長を兼任しているからである。まずは本人が、K社が儲けるのを優先させる策を講じることは成り行きだ。「O社の経営状態は、資金繰りに余裕はなくとも、潰れる末期状態ではない」と結論が下された。
【児玉 直、楢﨑 賢治】
COMPANY INFORMATION
(株)鐘川製作所
代 表:鐘川 喜久治
所在地:福岡県粕屋郡須恵町大字上須恵1495-1
設 立:1966年10月
資本金:4,000万円
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