<評価が分かれる義挙>
わずかな持ち株数での提案や現任取締役を含む候補提案など、「創業者・江頭氏の理念を貫いている」とする株主側への共感の声が聞かれる。一方で、株主として行動の評価は難しい。顧客満足度の低下やクレーム増加が株主の期待に反しているというが、一方でロイヤルホストの赤字は解消されつつある。株主から最も求められるのは、配当原資となる収益。「短期的な利益への過剰な偏重」は上場会社としてはやるべきことをやっているとも言える。
また「顧客満足度軽視」とあるが、デフレが進行するなかで顧客満足を図るものさしも変化が生じている。付加価値路線で生き残ってきたことは間違いないが、これまでのサービスやメニューでは収益が取れなくなっていたことも否めない。ベスト電器が後発組に飲み込まれていったのは、サービス面もさることながら、価格競争力でついていけなかったことが一面にある。路線変更の過渡期だったのか、営業現場を疲弊させる経費削減なのか、激変渦中の業界環境だけに、この先の業績や戦略を見なければ評価できない。
株主側には、リッチモンドホテルが念頭にある。「ロイヤルホスト」とは対照的に、5年連続して顧客満足度日本一の評価を得ている。ただ、業態や環境が異なるなかでの比較は難しい。また株主の利益という点では、今回の提案が株主を動揺させたのは間違いない。下手すると、株価下落につながりかねかなった。どのステークホルダーにどう有効性をもたらすか、今は見えない。
槍玉に上がった榎本氏の役割や評価も分かれる。実情は不明ながら、「私物化」という表現がことさら印象を暗くしている。リッチモンドホテルの売却要請の真意も不明だ。一方で、今回の内紛に際して創業者一族でもある役員は、いち早く会社側=榎本氏支持を打ち出したとされる。かつて江頭氏は、榎本氏を後継者と名指ししている。すでに榎本氏が高校生のときには見込んでおり、稲田直太元社長とともに評価。江頭氏は「2人は自分が何を考えているかよく理解しあえている」と最大級の賛辞を送っていた。
株主側は、江頭氏が望んだ「日本で一番質の高い商品を供給する外食事業の実現」が遠のいていることを危惧している。しかし、激変する環境下で江頭氏が仮に健在だったなら、どのような経営判断をするか知る術はない。江頭氏の表現を借りれば「榎本氏が最も近い判断をする」ことになる。
<東日本大震災で被災後に提案取り下げ>
こうしたなか、株主総会直前の3月17日、提案を行なった13名のうち12名が提案を取り下げた。東日本大震災で店舗が被災し、店舗をあるべき姿に戻すことが最優先との理由である。内紛している場合ではないという意味にもとれる。社員でもある残りの1名は、自らの氏名を公表したうえで自らが提出した辞表を公開した。文中で「権力闘争」や「地位報酬を狙った行為」を否定。また、ほかの12名の役員候補者や現役社員が退職を余議なくされることが本意ではないとして辞職を決意したことが記されている。
さらに、一部の今井氏の提案にほかの株主が従属しているという見方にも異を唱えている。あくまでグループが健全に発展するための打開策だったことを強調している。ネット社会の浸透とともに匿名での告発など横行するなかで、実名での行動は評価される。
しかし、株主の主張が事実としてその後、榎本氏の影響力が無くなるのか、社風が変わるのか、変わったとしても業績がついていくのか、これはまた別の話だ。本当に権力闘争ではなかったのか、むしろ新体制発足後に真相が見えてくる。
【鹿島 譲二】
COMPANY INFORMATION
ロイヤルホールディングス(株)
代 表:菊地 唯夫
所在地:福岡市博多区那珂3-28-5
設 立:1950年4月
資本金:136億7,617万9,700円
売上高:(10/12連結)1,104億4,000万円
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