<中国人の必死の帰国画策、その片棒を担ぐ>
今の若者の気がしれない。まだまだうろたえる必要もないのに大手商社に勤めている30歳の男は妻・子どもを連れて妻の実家に行ったのは3月16日のことである。もちろん、会社は休んでのことだ。3連休を挟んで23日まで休暇を取った。彼は「福島原発が爆発すれば東京に黒い雨が降る」と信じている。そこまで思い詰めているのには同情というよりも滑稽な気持になってしまう。
17日のことだ。社員が深刻そうな顔をして「相談があります」と近寄ってきた。「何事かな」とこちらにはまったく心当たりがなかった。「実は中国行きの切符を2枚押さえてくれませんか」との申し出であった。聞くところによると「東京滞在(3年間)の中国人2名は原発のことが気がかり。不安でたまらず東京・日本脱出を決断した」そうだ。ところが成田・羽田・関空発の中国行きの切符を予約するが1枚も取れなかったそうである。
そこで思いついたのが福岡にいる友人だ。弊社のお人好し社員である。「福岡から中国行きの飛行機チケットを押さえてくれ」と泣きつかれた。あてもないのに「OK、任せてくれ」と胸を叩いた。ふと冷静になってみれば打つ手がないことがわかった。そこでわが方に御鉢が廻ってきたのである。「さー、どうするかな」と、思案のしどころだ。
こちらとしても策が無尽蔵にあるわけでもない。中国専門の旅行社の友人にTELをした。「今ごろ、中国行きの券が取れるわけがない。きのうも頼まれ仕事をさばくのに今朝がた2時まで仕事をしていたのだよ」と連れない返事だ。そこで初めて「中国人は心底、パニックになっている」ことを知った。新聞・TVで読み耳にしても切実感が伝わってこない。
「まー、そこを何とかしてよ」と押してみた。「福岡から中国直行便はまず3月一杯無いな!!仁川(インチョン)経由で探してみよう」という回答だけは得た。「えー、上海行きだけでも福岡空港から1日5便あるのに3月一杯予約できないと!!」とTEL先で驚きの声をあげてしまった。「これは異様な事態が起きてしまっているのだ」と身振いをしたのである。
それはさて置き、持つべき者は友人だ。20分して折り返しのTELがかかってきた。「仁川経由で予約が取れた。しかし、26日分だぞ。これで了解してくれるかな」という回答だ。こちらとしてはまたまたビックリ仰天した。「9日後の26日しか押さえられないとは日本に住んでいる中国人・外国人は『放射能を被曝するぞ』と恐怖心におののいて日本脱出に躍起になっているのか」とようやく納得顔になれた。世話好きな社員に「26日しかないが先方は承知するか確認をしてよ」と命じた。5分もしないうちにその社員が「中国人の友人が喜んでいます。26日に日本脱出できるなんって『謝謝』と涙を流していました」と報告してきた。
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