東日本大震災の発生以降、しばし筆を休んでしまったことをお詫び申し上げます。右にならえで「自粛」というわけではなく、病を患い酒が飲めない日々が続いたのである。
震災の5日後ぐらいに中洲の様子を見に行った。行きつけの飲み屋でテレビをつけると、震災特番が流れていた。画面には被災地の悲惨な状況が次々と映し出された。店の雰囲気も自然と暗くなる。それでも、客の誰もが「テレビを消せ」と言えるわけもなく―。気まずい酒が辛くなり、その日はすぐに帰宅した。
小生だけではなく、震災後しばらくは中洲っ子のみなさんも酒を飲むのが気まずくなっていたようで、聞いたところでは、やはり売上が落ちているようだ。
それから病を患い自宅療養の日々が続いた。横になってテレビを見ていると、東京は新宿・歌舞伎町が真っ暗になっている様子が映し出された。かつて小生も足しげく通っていた街の、記憶に残っていたイメージとはうって変わった姿に、あらためて今回の震災の影響を実感した。真っ直ぐ家に帰るという会社員は、「いつ電車が止まるか分からない状況では、とても飲みにいけない」とカメラに向かって語っていた。
少し元気になったので、近所のコンビニへ食糧と水を調達しに行った。すると、空調や夜間の看板を消すといった節電のお知らせが入口に貼ってある。「まさか、中洲も真っ暗になってしまっているのでは・・・」と、不安を感じた小生は、直ちに中洲へ急行した。
ところが中洲では、「自粛ムード」はどこ吹く風といった感じで中洲大通をたくさんの人々が闊歩していた。数軒の店にたずねても、だいぶ客の入りが戻ってきたという。案内所からの情報では、ここのところ東京からの出張客が飲みにくるケースが増えているとか。東京から「真夜中の民」が避難してきたというワケだ。
一方、業界の噂によると、震災によってダメージを受けた被災地の歓楽街では、よそから来たスカウトたちが、仕事をなくした女の子たちをめぐり、争奪戦を繰り広げているという。そのうち客だけでなく、東から夜の蝶たちも避難してくるかもしれない。
東日本の歓楽街がダメージを受けた今、西日本の歓楽街・中洲が果たす役割は大きい。地元では飲めないという東日本の人たちを賑やかに迎え入れ、元気を与えるのは、「今、中洲にできること」だと小生は思うのである。
「東も真っ暗、西も真っ暗」では、本当に「お先真っ暗」だ。夜の経済活動ができるように、みなさん、頑張って働こう! そして東日本の人たちと店で会ったら一杯おごろうではないか!
【長丘 萬月】
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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